「代理人と名乗る人が契約書に署名したが、本当は代理権がなかった」。貸金業の窓口では起こりうる場面で、貸金業務取扱主任者試験の民法でもよく取り上げられる論点です。このとき契約はどうなるのか、貸した側(相手方)は何ができるのか、本人に責任を負わせられるのはどんなときか。この記事では、無権代理(民法113〜117条)と表見代理(109・110・112条)の違いを、条文を使って表で整理します。
条文は2026年11月3日にe-Gov法令検索で確認した内容に基づきます。試験は受験年度の法令が基準になるため、最新の情報は日本貸金業協会の公式サイトでご確認ください。
結論:無権代理は「本人が決める」、表見代理は「本人にも責任を負わせる」
先に全体像を表にします。
つまり、無権代理は「本人が認めるか次第」という出発点です。そのうえで、相手方が信じても仕方がない事情が本人の側にあるときに、例外として本人に責任を負わせるのが表見代理です。
表見代理が成立しないときも、相手方は無権代理人本人に履行か損害賠償を求められます(117条)。この「最後の受け皿」まで押さえるのが得点のコツです。
無権代理:本人が追認しなければ効力がない
民法113条1項は、代理権を持たない者が他人の代理人としてした契約は、本人が追認しない限り、本人に対して効力を生じないと定めています。たとえば、顧客の息子が「父の代理です」と言って借入契約に署名したが、父は誰にも代理権を与えていなかった、という場面です。
本人には2つの道があります。
追認の効力と伝え方
- さかのぼる:追認は、別段の意思表示がなければ契約の時にさかのぼって効力を生じます。ただし第三者の権利は害せません(116条)
- 相手方に伝える:追認またはその拒絶は、相手方に対してしなければ相手方に対抗できません。ただし、相手方がその事実を知ったときは別です(113条2項)
無権代理人にだけ追認を伝えても、相手方には主張できない点は、試験で狙われやすいところです。
相手方が使える3つの手段
無権代理の相手方を、民法は放っておきません。次の手段が用意されています。
催告(114条):黙っていれば「拒絶」になる
催告に対して本人が期間内に確答しないときは、追認を拒絶したものとみなされます。「返事がない=追認した」ではありません。この向きの取り違えは典型的な誤りです。催告は、代理権がないことを知っていた相手方でもできます。
取消し(115条):善意の相手方だけ
取消しは、本人が追認をしていない間に限り、できます。さらに、契約の時に代理権がないことを知っていた相手方は取り消せません(115条ただし書)。催告と取消しでは、悪意の相手方の扱いが違う点に注意してください。
無権代理人の責任(117条)
他人の代理人として契約した者は、自分の代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。次の場合は、この責任が生じません(117条2項)。
表見代理:本人にも落ち度があるとき
表見代理は、「代理権があるように見える事情を本人が作った」「代理権がなくなったのに見た目が残っていた」といった場合に、代理権があると信じた相手方を守る仕組みです。民法は次の3つの型を定めています。
112条は「知らなかっただけ」では足りない
代理権の消滅を知らなかった相手方であっても、過失によって知らなかったときは、本人は責任を負いません(112条1項ただし書)。たとえば、委任状の期限が切れていたことを、確かめれば分かったのに確かめなかった、といった場合です。「善意なら守られる」ではなく「善意かつ無過失」まで求められる点を押さえておきましょう。
範囲外の行為と重ねて起こる場合
代理権授与の表示があった場合や代理権が消滅した場合に、さらに代理人がその範囲外の行為をしたときは、相手方に代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、本人が責任を負います(109条2項・112条2項)。
無権代理と表見代理、貸金業の場面で見る
貸金業者の窓口で、顧客の家族が「本人が来られないので代わりに」と契約に来る場面を考えてみます。
- 本人が何も知らず、代理権も与えていない → 無権代理。本人が追認しなければ契約は本人に及ばない
- 本人が「自分の実印と委任状を預けた」と事前に相手方に伝えていた → 代理権授与の表示(109条)が問題になりうる
- 本人が頼んだのは保証の手続きだけだったのに、借入の契約までしてしまった → 権限外の行為(110条)が問題になりうる
どれに当たるかで、本人に請求できるのか、代理人に請求するのかが変わります。実務では本人確認や委任状の確認をしっかり行うことが、リスクを減らす基本です。
試験対策:取り違えやすいポイント
- 催告に確答がない:追認ではなく拒絶とみなす(114条)
- 取消し:追認前、かつ善意の相手方だけ(115条)。催告は悪意でもできる
- 追認の効果:契約の時にさかのぼる(116条)。ただし第三者の権利は害せない
- 追認・拒絶の相手:相手方に対してしないと対抗できない(113条2項)
- 無権代理人の責任:相手方の選択による履行または損害賠償。悪意・有過失の相手方、行為能力が制限されていた代理人には追及できない(117条2項)
- 表見代理の3型:109条・110条・112条の条文番号と、相手方の条件を対応させる
試験全体の構成や配点は貸金業務取扱主任者試験とはで、勉強の最後の仕上げ方は試験直前1か月の過ごし方で確認できます。契約書などの書面のルールは契約締結前の書面と契約締結時の書面の違いも合わせて読むと、代理で契約するときの注意点がつながります。
貸金業務取扱主任者講座では、代理の論点を登場人物の関係図で示しながら、1本10分前後の授業で学べます。つまずいたところは、AI講師トーレスにその場で質問できます。
よくある質問
Q. 無権代理の契約は、最初から無効ですか?
いいえ。本人が追認すれば、契約の時にさかのぼって有効な代理行為として扱われます。追認しないかぎり、本人に効力が生じない「不確定」な状態です。
Q. 催告をしても本人が返事をしないとどうなりますか?
追認を拒絶したものとみなされます(民法114条)。返事がないことは、追認とは扱われません。
Q. 代理権がないと知っていた相手方は、何もできませんか?
催告はできます(114条)。一方で、取消し(115条)と無権代理人への責任追及(117条)はできません。
Q. 表見代理と無権代理は、同時に成り立ちますか?
表見代理が成立すると、本人が契約の責任を負います。成立しなければ、無権代理として、本人の追認・相手方の催告や取消し、無権代理人への責任追及が問題になります。
まとめ
- 無権代理:本人が追認しなければ効力なし。追認は契約の時にさかのぼる
- 相手方の手段:催告(悪意でもよい・確答なければ拒絶)、取消し(善意・追認前)、無権代理人への責任追及(117条)
- 表見代理:109条・110条・112条の3型。相手方の信頼に理由があることが条件
- 悪意の相手方の扱いと「みなす」の向きを、条文番号とセットで覚える
条文の数は多いですが、「本人が決める」「相手方は何ができるか」「本人に責任を負わせられるか」の3つの問いに分けて読めば、整理しやすくなります。