貸金業者がお金を貸すときには、契約の前と後に、それぞれ書面を渡さなければなりません。名前も中身もよく似ているため、貸金業務取扱主任者試験では「どちらの書面の話か」を取り違えさせる出題が目立ちます。この記事では、契約締結前の書面(貸金業法16条の2)と契約締結時の書面(17条)の違いを、条文で確かめながら表で整理します。
条文は2026年10月14日にe-Gov法令検索で確認した内容に基づきます。試験では受験年度の法令が基準になるため、最新の案内は日本貸金業協会の公式サイトでご確認ください。
結論:渡す時期と相手、載せる項目が違う
まず全体像です。2つの書面の違いは、次の表に集約できます。
| 契約締結前の書面(16条の2) | 契約締結時の書面(17条) | |
|---|---|---|
| 渡す時期 | 契約を締結するまでに | 契約を締結したら遅滞なく |
| 渡す相手 | 契約の相手方「となろうとする者」 | 契約の相手方(保証の書面は保証人) |
| 役割 | 契約の内容を説明する | 契約の内容を明らかにする |
| 契約年月日 | 載せない | 載せる(17条1項2号) |
| 変更したとき | (本記事では扱わない) | 重要事項を変更したときも交付(17条1項後段) |
| 罰則 | 交付しないと48条の罰則 | 交付しないと48条の罰則 |
イメージとしては、「結ぶ前にこれから結ぶ内容を説明する書面」と「結んだ後に結んだ内容を確認させる書面」です。前者は申込者が内容を理解して契約するための書面、後者は結んだ契約の内容を相手方に明らかにする書面と考えると、載せる項目の違いも理解しやすくなります。
「まで」と「遅滞なく」、「となろうとする者」と「相手方」。この2組の言葉の違いが、条文問題の入口になります。
契約締結前の書面(16条の2)の中身
16条の2は、場面を3つに分けています。
| 項 | 場面 | 渡す相手 |
|---|---|---|
| 1項 | 貸付けの契約(極度方式基本契約と極度方式貸付けの契約を除く) | 契約の相手方となろうとする者 |
| 2項 | 極度方式基本契約 | 契約の相手方となろうとする者 |
| 3項 | 保証契約 | 保証人となろうとする者 |
ここで大事なのは、カッコ書きです。1項の対象からは「極度方式基本契約」と「極度方式貸付けに係る契約」が除かれています。つまり、カードローンのような枠(極度額)の契約では、枠を作る契約(基本契約)を結ぶ前に2項の書面を渡し、その枠から1回借りるたびの締結前の書面は求められていません。
条文が直接定める記載事項は、1項では「貸金業者の側の情報(商号・住所)」と「貸付けの条件(金額・利率・返済の方式・期間と回数)」、それに賠償額の予定(違約金を含む)の定めがあるときのその内容で、これに「内閣府令で定める事項」が加わります。
内閣府令で定める事項は施行規則12条の2に出ています。たとえば貸金業者の登録番号(括弧書きの部分は省略可)、元本・利息以外に債務者が負担する金銭、利息の計算の方法、返済の方法と場所、期限の利益の喪失の定め、将来支払う返済金額の合計額などです。合計額が契約時点で確定しない場合は、最低返済額を毎回払うなどの仮定を決め、その仮定で計算した額を、仮定の内容とあわせて示します。
2項(極度方式基本契約)では、貸付けの金額に代えて極度額が入り、返済期間・返済回数は条文の項目から外れます。そのかわり施行規則12条の2第2項が、極度額を1回貸し付けるという仮定を置いたうえで、合計額・返済期間・返済回数を書くよう求めています。
3項(保証契約)では、保証期間、保証金額、保証の範囲に関する事項、連帯保証であれば民法454条の趣旨などが入ります。なお、一定の範囲に属する不特定の貸付けに係る債務を主たる債務とする保証(いわゆる根保証)では、保証金額は除かれます。
契約締結時の書面(17条)の中身
17条は、契約を結んだあとに渡す書面です。書面は5つの場面に分かれます。
| 項 | 場面 | 渡す相手 |
|---|---|---|
| 1項 | 貸付けに係る契約(極度方式基本契約を除く) | 契約の相手方 |
| 2項 | 極度方式基本契約 | 契約の相手方 |
| 3項 | 保証契約の内容 | 保証人 |
| 4項 | 保証に係る貸付契約の内容 | 保証人 |
| 5項 | 極度方式保証契約に係る基本契約の内容 | 極度方式保証契約の保証人 |
16条の2と違って、1項のカッコ書きは「極度方式基本契約を除く」だけです。つまり、枠から1回借りるたびの極度方式貸付けも、1項の「貸付けに係る契約」に当たります。借りるたびに17条1項の書面が必要になる、というのが16条の2との大きな差です。
17条1項が直接定める記載事項は7つ(8号は内閣府令で定める事項)で、締結前の書面の項目に契約年月日を足した形になっています。
締結前の書面との違いは契約年月日が加わる点です。さらに施行規則13条1項は、契約の相手方の商号・名称又は氏名と住所、貸付けに関して貸金業者が受け取る書面の内容、各回の返済期日と返済金額、将来支払う返済金額の合計額などを追加しています。
契約の相手方の氏名・住所、契約年月日、貸金業者が受け取る書面の内容は、契約を結んだ後の17条の書面側の項目です。締結前の書面の項目として並べられていたら、取り違えを疑いましょう。
また、17条1項後段は、書面に記載した事項のうち重要なものとして内閣府令で定めるものを変更したときも、書面を交付すべきだとしています。
極度方式(カードローン型)での違い
枠の契約では、2つの書面の差がもっとも表に出ます。
| 場面 | 締結前の書面(16条の2) | 締結時の書面(17条) |
|---|---|---|
| 枠を作る契約(極度方式基本契約) | 契約締結までに2項の書面 | 締結後遅滞なく2項の書面 |
| 枠から1回借りる(極度方式貸付け) | 不要(1項から除外) | 借りるたびに1項の書面 |
枠から借りるたびの17条1項の書面は、施行規則13条1項で、一定の要件のもとで記載の省略が認められています。たとえば、旧利息制限法1条1項の制限額を超えない利息の極度方式貸付けで、17条2項の書面に同じ内容が載っているときは、利息の計算の方法や返済の方法・場所などを省略できる、といった規定です。ただし省略できる範囲と条件は細かく決まっているため、試験対策では、授業の整理表のようにまとめて覚えるのが現実的です。
17条6項は、さらに、相手方の承諾を得て、一定期間の貸付けと弁済の取引状況を記載した書面(内閣府令で定めるもの)を交付するときは、1項前段や4項前段の書面の交付に代えて簡略な事項を記載した書面を渡せる、という例外も置いています。
書面に代えて電磁的方法で提供できる
どちらの書面も、相手方の承諾を得て、書面の交付に代えて電磁的方法(電子メールなど)で提供できます。
- 16条の2第4項:貸付けの契約の相手方となろうとする者、または保証人となろうとする者の承諾を得て提供でき、この場合は書面の交付を行ったものとみなされる
- 17条7項:契約の相手方の承諾を得て提供でき、同じく書面の交付を行ったものとみなされる
どちらも条件は「承諾を得ること」です。承諾がないまま「電子で送ればよい」とする選択肢は誤りになります。
生命保険の同意の前に渡す書面(16条の3)
名前が似ているので、もう1つ確認しておきます。貸金業者が、借主などの死亡で貸金業者に保険金が支払われる保険契約を結ぼうとし、保険法38条または67条1項の同意を得ようとするときは、あらかじめ書面を渡します(16条の3第1項)。書面には、その保険契約が借主などの死亡時に貸金業者へ保険金を支払う旨などを書きます。これは契約の締結前の書面とは別の書面で、同意を得る「前に」渡す点が要点です。
試験での問われ方と覚え方
出題は、大きく次の型に分かれます。
- 時期の型:「契約を締結した後、遅滞なく」交付する書面がどちらか、「締結するまでに」はどちらか
- 相手の型:保証の書面を主たる債務者に渡せばよいのか、保証人に渡すのか
- 項目の型:契約年月日・契約の相手方の氏名や住所・貸金業者が受け取る書面は、どちらに入る項目か
- 極度方式の型:枠から借りるたびに締結前の書面が必要か、締結時の書面が必要か
覚え方は、「前は説明、後は確認」と、次の短い対応表です。
| キーワード | 結びつく書面 |
|---|---|
| まで(締結するまでに) | 16条の2 |
| 遅滞なく | 17条 |
| となろうとする者 | 16条の2 |
| 契約年月日 | 17条 |
| 極度方式貸付け(1回ごと)に必要 | 17条 |
| 重要事項の変更時にも交付 | 17条 |
本試験では、法令の条番号そのものよりも、「この記述は16条の2の書面の内容か、17条の書面の内容か」を判断させる形で出ることが多いと考えられます。まずは時期・相手・契約年月日の3点で振り分ける練習をすると、迷いが減ります。
罰則と、講座で学べること
2つの書面は、貸金業法48条の罰則でも並べて定められています。16条の2第1項から3項までの規定に違反して書面を交付しなかった場合と、17条(6項・7項を除く)の規定に違反して書面を交付しなかった場合は、いずれも1年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金に処せられ、またはこれが併科されます。書面を渡さない、あるいは必要な記載を欠くことは、それだけ重い義務違反と位置づけられているのです。
貸金業務取扱主任者講座では、契約締結前の書面と契約締結時の書面を、それぞれ独立した授業で扱います。記載事項の比較表や、保証の書面の渡し先の整理など、取り違えやすい点を確認問題で練習できます。講座の内容の詳細は講座ページでご確認ください。
関連する論点として、貸付けの前に行う調査は返済能力の調査とは? 貸金業法13条と指定信用情報機関の使い方を整理で、貸付金額の制限は総量規制とはで解説しています。
まとめ
- 契約締結前の書面(16条の2)は、契約を結ぶまでに、契約の相手方となろうとする者へ。契約の内容を説明する書面
- 契約締結時の書面(17条)は、結んだ後に遅滞なく、契約の相手方へ。契約年月日などを加えて契約の内容を明らかにする書面。重要事項を変更したときも交付する
- 極度方式では、枠から1回借りるたびの書面は17条1項側(締結前の書面は不要)
- 保証の書面は保証人に渡す。電磁的方法での提供は、どちらも相手方の承諾が必要
- 交付しない場合は、どちらも貸金業法48条の罰則の対象
書面の記載事項は細部まで数が多く、一度に暗記しようとすると混乱します。まずは「時期・相手・契約年月日」で2つの書面を振り分け、その後に極度方式、保証と広げていく順番がおすすめです。条文の最新の内容は、e-Gov法令検索や日本貸金業協会の公式サイトで確認してください。

