マンションで騒音や不法な改造が続いても、管理組合がいきなり部屋の持ち主を追い出せるわけではありません。区分所有法は、迷惑行為の重さと相手に応じて、段階的に使える請求を用意しています。マンション管理士試験では、「どの請求が、誰に対して、どの決議で使えるか」の取り違えが定番の引っかけです。この記事では、57条から60条までを1枚の比較表にまとめます。条文は令和7年改正(2026年4月1日施行)後の現行の規定で確認した内容です(2026年10月26日時点)。
結論:4つの請求は「相手」と「重さ」で選ぶ
違反があったときの請求は、次の4つです。
最初の請求は57条の「停止等」です。それでは解決できないほど重いときに、区分所有者には58条(使用禁止)か59条(競売)、占有者には60条(引渡し)へ進みます。
前提:「共同の利益に反する行為」とは
6条1項は、建物を傷める行為をはじめ、管理や使用の面で他の区分所有者全体の利益を損なう行為を禁じています。この禁止は、賃借人など区分所有者以外の占有者にも及びます(6条3項の準用)。
区分所有者でも占有者でもない人(たとえば敷地に無断で駐車する近隣住民)には、この仕組みは使えません。
57条:行為の停止等の請求
57条1項は、違反行為をした場合、またはそのおそれがある場合に、他の区分所有者の全員または管理組合法人が、区分所有者の共同の利益のため、次のことを請求できるとしています。
- その行為の停止
- その行為の結果の除去
- その行為を予防するため必要な措置
違反が起きる前の「おそれ」の段階でも請求できる点が、試験で問われます。
この請求は、訴えによらずに行うこともできます。この場合、集会の決議は不要です。一方、これに基づいて訴訟を提起するには、集会の決議が必要です(57条2項)。この決議は普通決議で、出席した区分所有者とその議決権の各過半数で決まります(39条1項)。管理者や、集会で指定された区分所有者は、集会の決議により、他の区分所有者の全員のために原告になれます(57条3項)。
占有者が同じ行為をした場合も、同じ仕組みです(57条4項)。
58条:専有部分の使用禁止の請求
58条1項は、共同生活上の障害が著しく、57条の請求では障害を除去して共同生活の維持を図ることが困難なときに、集会の決議に基づき、訴えをもって、相当の期間、その区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求できるとしています。
使用禁止は「相当の期間」に限られます。区分所有権そのものを奪う制度ではありません。
59条:区分所有権の競売の請求
さらに重い場合が、59条の競売の請求です。障害が著しく、他の方法では除去が困難なときに、集会の決議に基づき、訴えをもって、その区分所有者の区分所有権と敷地利用権の競売を請求できます(59条1項)。
手続は使用禁止とほぼ同じで、決議の要件と弁明の機会は58条2項・3項が準用されます(59条2項)。そのほかに、次の点を押さえてください。
- 判決に基づく競売の申立ては、判決が確定した日から6か月を過ぎるとできない(59条3項)
- 競売を申し立てられた区分所有者や、その者の計算で買い受けようとする者は、買受けの申出ができない(59条4項)
条文は、競売の要件を「他の方法によってはその障害を除去することが困難」としています。57条の請求や58条の請求を先に経ることを要件にはしていません。
60条:占有者に対する引渡し請求
賃借人などの占有者が迷惑行為を続け、他の方法では解決が難しいときは、60条の請求です。区分所有者の全員または管理組合法人が、集会の決議に基づき、訴えをもって、その占有者が占有する専有部分の使用または収益を目的とする契約の解除と、専有部分の引渡しを請求できます(60条1項)。
決議は58条2項、弁明の機会は58条3項が準用されます(60条2項)。弁明の機会を与える相手は、占有者です。
引渡しの判決に基づいて専有部分の引渡しを受けた者は、遅滞なく、その専有部分を占有する権原を有する者(たとえば貸主である区分所有者)に引き渡さなければなりません(60条3項)。管理組合が部屋を自由に使えるわけではない点に注意してください。
4つの請求の比較表
訴えが必要な3つは、「特別決議と弁明の機会がセット」と覚えると整理しやすくなります。
決議の数え方:定足数に注意
58条2項は、4分の3以上の決議をするには、まず区分所有者の過半数で、議決権の過半数を有する者が出席していることを求めています。この割合は、規約でそれ以上に高く定めることができます。そのうえで、出席した区分所有者とその議決権の各4分の3以上の賛成が必要です。
たとえば、区分所有者46人、議決権50個のマンションで、30人・議決権34個が出席したとします。
数は例として作ったものです。普通決議なら、出席者の過半数(30人なら16人以上、34個なら18個以上)が目安になります。
試験での取り違えを表で確認
事例で判定する
授業・講座への導線
マンション管理士講座では、区分所有法の章で、義務違反者に対する措置を、相手と決議の対照表とあわせて扱います。料金は月額プラン4,980円/年額プラン39,800円(年額プランの月あたり3,317円)、いずれも税込です。最新の料金は講座ページで確認してください。
決議の割合の全体像は区分所有法の決議要件を1枚の表で整理した記事、集会の開き方は集会の招集手続の記事で確認できます。
よくある質問
Q. 賃借人に専有部分の使用禁止を請求できますか?
できません。58条の使用禁止の請求の相手は区分所有者です。占有者には、57条の停止等の請求と、60条の契約の解除・引渡しの請求を使います。
Q. 訴えを起こすのに、規約で理事会の決議だけにできますか?
条文は、訴訟の提起には集会の決議によると定めています(57条2項)。58条〜60条でも、集会の決議に基づくことが要件です。
Q. 競売の申立てに期限はありますか?
あります。判決が確定した日から6か月を過ぎると、競売の申立てはできません(59条3項)。
まとめ
- 請求は4つ。停止等(57条)、使用禁止(58条)、競売(59条)、占有者への引渡し(60条)
- 使用禁止・競売・引渡しは、訴えと出席者の各4分の3以上の決議、本人への弁明の機会がセット
- 使用禁止と競売は区分所有者だけ。占有者には引渡し請求
- 競売の申立ては判決確定から6か月以内。引渡しを受けた者は権原のある人へ引き渡す
義務違反者の措置は、相手(区分所有者か占有者か)と決議の種類を先に確認すると、選択肢を落ち着いて判断できます。条文の内容は改正されることがあります。最新の規定は、e-Gov法令検索で確認してください。