建替え決議は、集会で賛成を集めれば終わり、という手続ではありません。集会の2か月前の通知、1か月前の説明会、決議後の催告、2か月の回答期間、売渡請求、そして買戻しまで、期間が何本も連続して出てきます。マンション管理士試験では、この「どの期間が何か月か」を取り違えやすいところです。この記事では、建替え決議の手続を時間の順に並べて整理します。区分所有法の条文は、e-Gov法令検索で確認した改正後(2026年4月1日施行)の規定です(2026年11月1日時点)。
結論:建替え決議の手続は「決議の前」と「決議の後」に分けて覚える
建替え決議の手続は、決議の前に3つ、決議の後に5つの山があります。
この表の数字を、時間の順にたどれるようにするのが、この記事のゴールです。
「2か月」が3回出てきます。招集通知は「会日の前」、回答は「催告を受けた日から」、売渡請求は「回答期間の満了日から」。起点がそれぞれ違う、と整理すると混ざりません。
建替え決議の要件:出席者ではなく「全体」で数える
まず、決議そのものの数え方を確認します。建替え決議は、区分所有者(議決権を有しない人を除く)の数と議決権の、それぞれ5分の4以上の多数で行います(区分所有法62条1項)。
ここで大事なのは、母数が出席者ではなく全体であることです。集会に出席した人の5分の4ではありません。欠席した人は、結果として賛成していない側に数えられます。
建物が次のいずれかに当てはまるときは、5分の4が4分の3に下がります(62条2項)。
- 地震に対する安全性について、法務大臣が定める基準に適合していない
- 火災に対する安全性について、法務大臣が定める基準に適合していない
- 外壁や外装材が剝離・落下して、周辺に危害を生ずるおそれがある
- 給水・排水などの配管設備の劣化で、著しく衛生上有害となるおそれがある
- 高齢者・障害者等の移動等の円滑化の基準に適合していない
数字で確かめます。区分所有者が50人、議決権が合計60個のマンションを考えます(この数字は説明用に作った例です)。
人数と議決権は、どちらか一方ではなく両方の要件を満たす必要があります。
令和7年改正で、建物の更新や取壊しなど、建替え以外の決議も加わりました。その全体像は、令和7年の区分所有法改正の記事で整理しています。決議要件の一覧は区分所有法の決議要件の記事も使えます。
決議で定める4つの事項
建替え決議では、次の4つを定めなければなりません(62条4項)。
このうち③と④は、各区分所有者の衡平を害しないように定める必要があります(62条5項)。「衡平」というキーワードは、③と④にだけ付いていると覚えておくと、①②との区別がつきます。
決議の前の手続:招集は2か月前、説明会は1か月前
通常の集会の招集通知は、会日より少なくとも1週間前に発します(35条1項)。ところが、建替え決議を会議の目的とする集会は、通知を会日より少なくとも2か月前に発しなければなりません(62条6項)。この期間は、規約で伸ばすことができます(短くはできません)。
通知には、会議の目的たる事項と議案の要領のほか、次の4つも書きます(62条7項)。
「建替えをしない場合の費用」を示すのは、建替えと修繕を比べて判断してもらうためです。
さらに、集会を招集した者は、会日より少なくとも1か月前までに、通知すべき事項について説明する説明会を開催しなければなりません(62条8項)。説明会の開催には、招集通知の規定(35条)と、招集手続の規定(36条)が準用されます(62条9項)。区分所有者から求められた場合だけ開く、というものではありません。
「規約で伸ばせる」のは招集通知の2か月の期間です(62条6項ただし書)。説明会の1か月は条文に伸縮の規定がなく、また2か月と1か月を取り違える誤りが出やすい点です。通知は2か月、説明会は1か月、と対にして覚えます。
決議をしたときは、議事録に各区分所有者の賛否も記載または記録します(62条10項は、61条6項を準用しています)。
決議の後の手続①:催告と2か月の回答期間
決議が可決されたら、集会を招集した者は遅滞なく、決議に賛成しなかった区分所有者(その承継人を含む)に対し、建替えに参加するかどうかを回答するよう、書面で催告しなければなりません(63条1項)。相手の承諾を得れば、書面に代えて電磁的方法で催告することもできます(63条2項)。
催告を受けた区分所有者は、催告を受けた日から2か月以内に回答します(63条3項)。回答しなかった人は、参加しない旨を回答したものとみなされます(63条4項)。「無回答は参加とみなす」ではない点が、試験で狙われます。
回答の結果、建替えに「参加する側」と「参加しない側」が決まります。
決議に賛成した人、参加すると回答した人、買受指定者は、建替え決議の内容により建替えを行う旨の合意をしたものとみなされます(64条)。
決議の後の手続②:売渡請求は回答期間の満了日から2か月以内
回答期間(2か月)が過ぎたら、参加する側は、参加しない側に対して、区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できます。これが売渡請求です(63条5項)。
請求を受けた人が、建物を明け渡すと生活上著しい困難を生ずるおそれがあり、かつ建替え決議の遂行に甚だしい影響を及ぼさないと認められる顕著な事由があるときは、裁判所が、その人の請求により、代金の支払または提供の日から1年を超えない範囲で、明渡しに相当の期限を許与することができます(63条6項)。許与されるのは「建物の明渡し」の期限です。
決議の後の手続③:2年以内に着手しないと買戻し
売渡請求で区分所有権や敷地利用権を手放した人は、建替えが実際に進むことを前提に売っています。そこで、決議の日から2年以内に建物の取壊しの工事に着手しない場合には、売り渡した人は、2年の期間の満了の日から6か月以内に、買主が支払った代金に相当する金銭を、現在その権利を持つ人に提供して、売り渡すよう請求できます(63条7項本文)。
ただし、着手しなかったことに正当な理由があるときは、この請求はできません(63条7項ただし書)。その理由がなくなった日から6か月以内にも着手しないときは、買戻しを請求できます。その場合の請求の期限は、理由がなくなったことを知った日から6か月、またはその理由がなくなった日から2年の、いずれか早い時期までです(63条8項)。
ここまでを、時間の順に並べ直します。
試験で取り違えやすいポイント
令和7年の改正で、建替え決議の規定のほか、区分所有者の所在が分からない場合の取扱い(38条の2)なども整備されました。裁判所の裁判で「所在等不明区分所有者」とされた人は、集会の議決権を有しません。古い教材の数字を覚えているときは、必ず改正後の条文で確かめ直してください。
学習の進め方:期間は「起点」とセットで覚える
建替え決議の手続は、数字を単独で覚えるより、「起点」とセットで覚えるほうが定着します。
- まず、決議の要件(全体の5分の4、客観的事由があれば4分の3)を覚える
- 次に、決議の前の期間(通知は2か月前、説明会は1か月前)を覚える
- 最後に、決議の後の期間を、①催告→②回答2か月→③売渡請求2か月→④2年→⑤6か月の順に並べる
マンション管理士講座では、区分所有法の決議の分野を、条文の順ではなく論点ごとに整理した授業で扱っています。表や数字の暗記だけでなく、事例で数えて確かめる練習をすると、本試験での取り違えが減ります。
よくある質問
Q. 建替え決議は、出席者の5分の4で成立しますか。
いいえ。建替え決議は、区分所有者の数と議決権のそれぞれについて、全体の5分の4以上(客観的事由があれば4分の3以上)が必要です(62条1項・2項)。出席者を母数にするのは、集会の普通決議などの場合です。
Q. 説明会は、区分所有者から求められたときだけ開けばよいですか。
いいえ。集会を招集した者は、会日より少なくとも1か月前までに説明会を開催しなければなりません(62条8項)。求めの有無は条文の要件になっていません。
Q. 催告に回答しなかった人は、建替えに参加したことになりますか。
いいえ。回答期間内に回答しなかった人は、参加しない旨を回答したものとみなされます(63条4項)。そのため、売渡請求の相手になります。
Q. 建替え決議の後、取壊しの工事が始まらないとどうなりますか。
決議の日から2年以内に着手しない場合、売渡請求で権利を手放した人は、2年の満了日から6か月以内に買戻しを請求できます。ただし、着手しなかったことに正当な理由があるときは請求できません(63条7項・8項)。
まとめ
- 建替え決議は、区分所有者数と議決権の各5分の4以上(客観的事由があれば各4分の3以上)。全体で数える
- 決議の前は、通知が会日の2か月前、説明会が1か月前まで。決議で定める4事項のうち、費用の分担と区分所有権の帰属は衡平を害しないように定める
- 決議の後は、書面の催告→受けた日から2か月で回答→満了日から2か月で売渡請求。無回答は「参加しない」とみなされる
- 決議から2年以内に取壊しの工事に着手しないと、買戻しを請求できる(満了日から6か月以内)
条文の番号や期間は、改正で変わることがあります。受験する年度の4月1日現在で施行されている法令が基準になりますので、最新の条文はe-Gov法令検索で確かめてください。