標準旅行業約款には、パッケージツアーなどの企画旅行契約や手配旅行契約のほかに、「渡航手続代行契約」と「旅行相談契約」という2つの小さな契約があります。名前が似ているうえに、条文の並びもほとんど同じなので、約款の科目では「どちらの契約の話か」を取り違えさせる選択肢が作られます。
この記事では、標準旅行業約款(観光庁・消費者庁告示、令和8年3月9日の改正を反映し、令和8年4月1日から適用されるもの)の「渡航手続代行契約の部」と「旅行相談契約の部」を読み比べ、違いを6つの項目に分けて整理します。条文は当社(旅行業者)の立場で書かれているので、「当社」は旅行会社のことだと読み替えてください。
結論:何を引き受けるかが違い、成立の形はよく似ている
2つの契約が引き受ける業務を、まず並べます。
どちらも旅行業者が「旅行業務取扱料金」を受け取ることを約束して、旅行者の委託によって業務を行う契約です。ホテルや航空券を実際に手配する契約ではありません。手配は、別に手配旅行契約や企画旅行契約で行います。
「手続の代行」なら渡航手続代行契約、「助言・計画・見積り・情報」なら旅行相談契約。この切り分けが、選択肢を読む最初のステップです。
違い1:契約を結べる旅行者の範囲
2つの契約で最もはっきり違うのは、誰と契約するかです。
渡航手続代行契約は、ほかの契約を結んだ旅行者に付けて提供するサービスという位置づけです。そのため、旅行相談契約だけを結んだ旅行者は、条文に挙がっていません。「相談料金を払った旅行者だから、そのまま査証の申請も代行できる」という選択肢は、2条の対象に入っていないので誤りです。
旅行相談契約には、このような範囲の限定がありません。旅行を申し込む前の段階の人から、相談を受けられます。
違い2:引き受ける業務の中身
渡航手続代行契約の業務は、3条に3つ並んでいます。
- 旅券、査証、再入国許可及び各種証明書の取得に関する手続
- 出入国手続書類の作成
- その他前各号に関連する業務
再入国許可は、日本に住む外国人がいったん出国して戻るための許可です。
旅行相談契約の業務は、2条に5つ並んでいます。
- 旅行者が旅行の計画を作成するために必要な助言
- 旅行の計画の作成
- 旅行に必要な経費の見積り
- 旅行地及び運送・宿泊機関等に関する情報提供
- その他旅行に必要な助言及び情報提供
この5つには、予約や手配は入っていません。「相談契約で、助言に加えてホテルの予約もする」という内容は、この契約の範囲を超えています。
違い3:契約の成立の時と、契約を断れる場合
成立の時は、2つの契約でほぼ同じ形です。
どちらの契約の部にも、申込金の定めはありません。申込金を受け取った時に成立する、という形にはなりません。
一方、旅行業者が契約の締結に応じないことがある場合の数は違います。
相談の内容がテーマになる旅行相談契約にだけ、「公序良俗」や「旅行地の法令」の事由が加わっています。手続の代行である渡航手続代行契約には、この事由がありません。
違い4:成立後の書面の交付
成立のあとに書面を渡すかどうかも、はっきり違います。
渡航手続代行契約は、旅券や査証の申請という手続を預かるので、何を引き受けたかを書面で示す必要があります。旅行相談契約の部を読んでも、契約書面の定めは見当たりません。
違い5:旅行者と旅行業者の義務、解除
渡航手続代行契約には、旅行者の義務と旅行業者の守秘義務が定められています。
「査証料等」とは、旅行業者が本邦の官公署や在日外国公館(日本にある外国の大使館や領事館)などに払う手数料や査証料などのことです。渡航手続代行契約では、この実費は旅行者が負担します。
旅行業者から解除できる事由を見比べます。
旅行相談契約では、契約の締結に応じないことがある事由のうち、公序良俗・旅行地の法令違反(1号)と業務上の都合(5号)は、解除の事由に入っていません。「締結を断れる事由」と「あとから解除できる事由」は同じではない、という点は、約款の科目でよく狙われます。
渡航手続代行契約が解除されたときは、旅行者は、すでに払った査証料等と費用を負担するほか、旅行業者がすでに行った受託業務に係る渡航手続代行料金を支払います(7条3項)。
違い6:旅行業者の責任
責任の定めは、2つの契約でよく似ています。
賠償の条件は同じ「6か月以内の通知」です。募集型企画旅行契約の旅行業者の責任の通知(損害発生の翌日から2年以内)と混同しないよう注意してください。
保証しない内容は、契約の性質に合わせて違います。渡航手続代行契約では、旅行業者の責任でなければ、旅券が取れなかったり、入国が許可されなかったりしても、旅行業者は責任を負いません。旅行相談契約では、計画に書いたホテルが満員で取れなかったとしても、旅行業者は責任を負いません。
試験での問われ方と間違えやすい点
選択肢でよくある誤りのパターンを、確認用にまとめます。
海外旅行の約款のほかの論点(国内旅行との違いなど)は、標準旅行業約款の海外旅行の規定まとめで整理しています。
授業で確認するには
2つの契約は条文が短いので、表にまとめて見比べるのが早道です。総合旅行業務取扱管理者講座では、約款の授業の中で2つの契約を取り上げています。条文の番号まで追いたい人は、この記事の表と見比べながら、約款の原文を一度通して読んでみてください。
よくある質問
Q. 渡航手続代行契約では、査証の費用は誰が払いますか。
旅行者が払います。旅行業者が官公署や在日外国公館に払う手数料・査証料などの「査証料等」は、旅行業者が定める期日までに旅行者が旅行業者へ支払います(6条3項)。
Q. 渡航手続代行契約を結べば、必ず旅券を取得できますか。
取得できる保証はありません。旅行業者の責任でない事由で旅券等を取得できなかった場合や、関係国への出入国が許可されなかった場合は、旅行業者は責任を負いません(8条2項)。
Q. 旅行相談の内容は、予約の手配を含みますか。
含みません。旅行相談契約の業務は、助言、計画の作成、費用の見積り、情報提供の5つです。予約の手配は別の契約で行います。
まとめ
渡航手続代行契約は「手続の代行」、旅行相談契約は「助言・計画・見積り・情報」。契約を結べる旅行者の範囲、成立後の書面、解除の事由、守秘義務の有無が違い、賠償の条件(損害発生の翌日から6か月以内の通知)は同じです。表の6項目で比べて覚えましょう。
この記事は、観光庁・消費者庁告示の標準旅行業約款(令和8年4月1日適用)をもとに、2026年10月30日時点で書いています。試験に出る約款は年度によって改正されることがあるため、受験する年度の試験案内と最新の約款で確認してください。