区分所有法は令和7年に大きく改正され、2026年4月1日に施行されました。マンション管理士試験でも、決議の数え方や新しい制度は、これから学ぶ人が最初に押さえたい分野です。この記事では、e-Gov法令検索の条文と法務省の資料を確かめながら、改正の要点を「決議の数え方」「新しい制度」「再生の決議」の3つに分けて整理します。改正後の規定だけを書いています(2026年10月14日時点の確認です)。
結論:改正のねらいは「決議を成り立たせやすくする」こと
法務省の資料は、改正の背景として建物と居住者の「2つの老い」を挙げています。古い建物が増え、決議に参加しない区分所有者や、連絡がつかない区分所有者がいて、必要な工事や建替えが進みにくい、という問題意識です。そこで改正は、次の3つの方向で進められました。
- 決議を、全員を母数にする方式から、出席者を母数にする方式へ寄せる
- 連絡がつかない区分所有者を母数から外したり、専有部分を裁判所の管理人に管理させたりする仕組みを作る
- 建替えだけでなく、更新・売却・取壊しも多数決でできるようにする
区分所有法の改正部分の施行日は、法務省のページで2026年4月1日と案内されています。既存のマンションにも原則として適用されます。ただし、施行日までに行われた集会の決議の効力は変わりません。
出席者で数える決議:何が変わったか
改正後の39条1項は、集会の議事を「出席した区分所有者(議決権を有しないものを除く。)及びその議決権の各過半数」で決めると定めています。書面や代理人で議決権を行使した人は、出席した人の数に入ります(39条2項)。規約や集会の決議があれば、電磁的方法による行使もできます(39条3項)。
特別決議にあたる共用部分の変更(17条1項)や規約の変更(31条1項)は、区分所有者の過半数かつ議決権の過半数の出席を前提に、出席した人の各4分の3以上で決まります。法務省の資料も、特別決議には定足数(過半数)があると説明しています。
改正前後の違いを、母数の面から表にします。
| 決議 | 改正後の母数 | 割合 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 普通決議(共用部分の管理など) | 出席者 | 各過半数 | 39条1項 |
| 共用部分の変更 | 出席者(過半数の出席が前提) | 各4分の3。一定の事由があれば各3分の2 | 17条1項・5項 |
| 規約の設定・変更・廃止 | 出席者(過半数の出席が前提) | 各4分の3 | 31条1項 |
| 管理組合法人の区分所有権等の取得 | 出席者(過半数の出席が前提) | 各4分の3 | 52条の2第1項 |
| 建物の一部が滅失したときの復旧 | 出席者(過半数の出席が前提) | 各3分の2 | 61条5項 |
| 建替え・更新・売却・取壊しなど | 全体 | 各5分の4(客観的事由があれば建替えは4分の3) | 62条1項・2項、64条の5〜64条の8 |
「処分を伴う決議は全体で数える」と覚えると、整理しやすくなります。建替えや売却は、区分所有権そのものを失う可能性があるため、母数を出席者に絞らない設計です。
ここで、17条1項の細かい点も確かめておきます。共用部分の変更の4分の3は、規約で2分の1を超える範囲まで下げられます。改正前は区分所有者の頭数の割合だけを下げられましたが、改正後は出席した区分所有者と議決権のどちらの割合も対象です。条文のかっこ書きが「出席した区分所有者及びその議決権の各四分の三(これを下回る割合(二分の一を超える割合に限る。)を規約で定めた場合にあつては、その割合)以上」となっているためです。
招集通知のルールも変わった
35条1項は、集会の招集通知を会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項と議案の要領を示して発すると定めています。改正で、すべての集会の通知に議案の要領が必要になりました。通知から会日までの期間は、規約で1週間より短くはできません(伸長はできます)。法務省の資料は、規約に「5日まで短縮できる」という定めがあっても、改正法に抵触する部分は効力を失うと説明しています。
所在等不明区分所有者は母数から外れる
38条の2は、区分所有者を知ることができない、またはその所在を知ることができないときに、裁判所が「それ以外の区分所有者による決議ができる」旨の裁判をすると定めています。請求できるのは、ほかの区分所有者または管理者です。この裁判で所在等不明区分所有者とされた人は、集会の議決権を持ちません(38条の2第2項)。
法務省の資料には、無関心な人と所在不明の人が多い場面の例があります。全員を母数にすると賛成が5分の2にとどまって否決される決議が、出席者を母数にし、所在不明者を外すと賛成3分の2で可決する、という図です。数字は資料の例示で、実際の結果は個々のマンションで変わります。
このほかの細かな明確化として、共有の専有部分の議決権行使者は、共有持分の価格の過半数で指定することが40条で明記されています。
新しい制度:管理人と国内管理人
改正で、次の制度が新設されました。名前と使いどころを表にします。
| 制度 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 国内管理人 | 国内に住所・居所のない区分所有者が選ぶ、保存行為・集会通知の受領・議決権の行使などを行う人 | 6条の2 |
| 所有者不明専有部分管理命令 | 所有者が不明の専有部分を、裁判所が選ぶ管理人に管理させる | 46条の2〜 |
| 管理不全専有部分管理命令 | 管理が不適当な専有部分を、裁判所が選ぶ管理人に管理させる | 46条の8〜 |
| 管理不全共用部分管理命令 | 管理が不適当な共用部分を、同様に管理人に管理させる | 46条の8〜 |
| 区分所有者の相互協力義務 | 建物の管理が適正かつ円滑に行われるよう協力する責務 | 5条の2 |
| 他の専有部分への保存請求 | 自分の専有部分を保存するため、他の専有部分を自ら保存することを請求できる | 6条2項 |
国内管理人(6条の2)の権限は、条文に5つ書かれています。保存行為、専有部分の性質を変えない範囲での利用・改良、集会の招集通知の受領、議決権の行使、そして共用部分などについて負う債務の弁済です。国内管理人を選んだ区分所有者は、管理者や管理組合法人があれば、選任したことなどを通知します。
管理命令の制度は、裁判所が管理人を選任する点が共通です。所有者不明専有部分管理命令は、利害関係人の請求で出されます。管理不全の命令は、他人の権利や法律上保護される利益が侵害される(おそれがある)ときに、利害関係人の請求で出されます。管理人は、専有部分の保存や利用の範囲を超える行為をするときに、裁判所の許可が必要になる場合があります(細かい許可の要件は、条文で確かめてください)。
また、共用部分の変更や管理に合わせて必要になる専有部分の保存行為等を、規約に特別の定めがあれば同じ決議でできるようになりました(17条3項、18条4項)。配管の更新が典型例です。この場合、態様や費用の分担は、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めます(17条4項)。
再生の決議:建替えだけでなく、更新・売却・取壊しも
建替え決議は、全体の各5分の4以上です(62条1項)。次の事由のどれかに当たる建物では、4分の3に下がります(62条2項)。
- 地震に対する安全性を欠く
- 火災に対する安全性を欠く
- 外壁などの剝離・落下で周辺に危害を生ずるおそれがある
- 給排水設備の損傷・腐食で著しく衛生上有害となるおそれがある
- バリアフリーの基準に適合していない
詳しい基準は、法務省令と法務省告示で定められています(法務省のページに告示へのリンクがあります)。
改正で、建替え以外の再生手法が加わりました。
| 決議 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 建物更新決議 | 躯体を残したまま、すべての専有部分を含む建物全体を更新する(一棟リノベーション) | 64条の5 |
| 建物敷地売却決議 | 建物と敷地を一括して売却する | 64条の6 |
| 建物取壊し敷地売却決議 | 建物を取り壊したうえで敷地を売却する | 64条の7 |
| 取壊し決議 | 建物を取り壊す | 64条の8 |
法務省の資料は、これらを建替え決議と同じ多数決(原則5分の4、客観的事由があれば4分の3)で行えるようにしたと説明しています。条文のうえでは、建物更新決議が「区分所有者及び議決権の各5分の4以上」であることを64条の5第1項で確かめました。
建替え決議があったときの賃貸借の扱いも、新しい規律です(64条の2〜64条の4)。決議に賛成した区分所有者などが賃貸借の終了を請求すると、請求から6か月で賃貸借が終了します。専有部分の区分所有者は、賃借人に補償金を支払い、賃借人は補償金の提供を受けるまで明渡しを拒めます(64条の2)。
団地では、一括建替え決議が全体の5分の4で、団地内建物の全部が客観的事由に当たるときは4分の3です(70条1項・2項)。一部の建物の建替え承認決議は、団地全体の4分の3で、建替え対象の建物が客観的事由に当たるときは3分の2です(69条1項・8項)。団地の細かい内容は、別の記事で扱う予定です。
被災区分所有法も、同じ日に改正されています。法務省の資料によると、建替え・建物敷地売却などの多数決割合が3分の2に引き下げられ、決議できる期間も延びました。
試験での問われ方と覚え方
改正後の区分所有法は、受験する年度の4月1日現在で施行されているため、令和8年度の試験の学習は改正後の条文で行います。問われ方は、次のような視点になりやすいでしょう。
- 決議の母数が「出席者」か「全体」か
- 割合が何分の何か、客観的事由で下がる決議はどれか
- 規約で変えられる範囲(17条1項の下限は2分の1を超える範囲)
- 新しい制度で、誰が請求し、誰が管理人になるか、裁判所の関与の有無
決議の割合の全体像は、区分所有法の決議要件を1枚の表で整理した記事でまとめています。試験の形式や日程はマンション管理士試験の全体像の記事で確認できます。
古い参考書や問題集には、改正前の「全員を母数にする普通決議」の割合や旧条番号が載っています。購入した教材の改訂年を確かめ、条文と照らして使いましょう。
講座で学ぶには
改正の論点は、「母数」「割合」「新制度の名前と請求者」を同時に覚える必要があり、表を何度も使って確かめるのが効果的です。マンション管理士講座では、区分所有法の授業と確認問題で、決議の数え方を練習できます。授業の内容と進め方は、講座ページで確認できます。
まとめ
- 決議は、処分を伴うもの以外は出席者の多数決。特別決議には過半数の出席という定足数がある
- 所在等不明区分所有者は、裁判所の裁判で母数から外れる(38条の2)
- 建替え・更新・建物敷地売却・取壊しは全体の各5分の4。客観的事由があれば4分の3
- 国内管理人や、裁判所が選ぶ管理人による管理命令など、新しい制度が加わった
法令は改正されます。この記事の内容は2026年10月14日時点の確認で、2026年4月1日施行の規定です。受験前には、e-Gov法令検索と、マンション管理センターの最新の案内で確認してください。

