ツアー中にけがをしたり、カメラを壊したりしたとき、旅行会社に落ち度がなくても支払われるのが特別補償です。国内旅行業務取扱管理者試験の約款では、補償金や見舞金の金額、支払われる場合と支払われない場合が、計算問題を含めて繰り返し問われます。この記事では、標準旅行業約款の特別補償規程を、国内旅行の数字に絞って整理します。
内容は、観光庁が公表している標準旅行業約款(令和8年3月9日改正、同年4月1日適用)を2026年10月27日に確認したものです。試験では、その年度に定められた基準日時点の約款が問われます。最新の内容は観光庁の公式サイトでご確認ください。
特別補償とは? 損害賠償との違い
特別補償は、旅行会社の責任が生じるかどうかに関係なく、旅行者が企画旅行に参加している間に生命・身体・手荷物に受けた一定の損害に対して、あらかじめ決めた額の補償金と見舞金を支払う制度です。募集型企画旅行契約の部28条1項(受注型企画旅行契約の部では29条1項)が根拠で、細かい内容は別紙の特別補償規程に書かれています。
損害賠償との違いは、次の表のとおりです。
旅行会社に責任があって損害賠償金を払うときは、その額の限度で、特別補償の補償金は損害賠償金とみなされます(28条2項)。二重取りにはならず、重なる分は賠償金の中に含まれる、という考え方です。
補償の対象になるのは「企画旅行参加中」
補償を受けられるのは、企画旅行参加中の事故だけです。規程2条2項は、旅行者が参加する目的で旅行会社があらかじめ手配した乗車券類などによって提供される、日程上の最初のサービスを受け始めた時から、最後のサービスを受け終えた時までと定めています。
自宅から集合場所へ向かう途中や、解散後の帰り道は参加中ではありません。始まりと終わりの時点は、添乗員などが受付や解散の告知をするかどうかで決まります。
試験では、「港に着いて乗船手続の前に転んだ」「乗船手続を済ませたあと待合室で転んだ」のように、時点の前後で答えが変わる問題が出ます。手続の完了時から参加中、と覚えます。
離脱と手配のない日
途中でツアーを抜けることを離脱といいます。離脱と復帰の予定日時を前もって旅行会社に届け出ていれば、離脱中も参加中です。届け出ずに離脱したときは、復帰するまでは参加中ではありません。復帰の予定なく離脱したときは、それ以後ずっと参加中ではありません。
また、旅行会社が手配したサービスを一切受けない日(丸1日の自由行動の日など)を参加中としないためには、その旨と、その日の事故には補償金と見舞金を払わないことを、契約書面に明示しておく必要があります。
参加中のツアー客を対象に、旅行会社が別の代金を受け取って実施するオプショナルツアー(企画旅行)は、元のツアーの契約の一部として扱います(28条4項)。別のツアーとして切り離されません。
身体の傷害に支払う4つの補償金・見舞金
規程1条は、企画旅行参加中の急激かつ偶然な外来の事故で身体に傷害を受けたときに、死亡補償金、後遺障害補償金、入院見舞金、通院見舞金を払うと定めています。突然、思いがけず、外からの原因で起きた事故のことです。有毒ガスなどによる急性の中毒は含みますが、細菌性食物中毒は含みません。
国内旅行を目的とする企画旅行の金額は次のとおりです(海外旅行は額が異なります)。
入院見舞金と通院見舞金の額
通院には、病院・診療所・オンライン診療受診施設に通う場合のほか、往診とオンライン診療も含みます。通院していなくても、骨折の固定のために医師の指示でギプスなどを装着し続け、そのせいで仕事や日常生活に大きな支障が出ていると旅行会社が認めた期間は、通院日数に数えます。ただし、仕事や生活に支障がない程度に治ったあとの通院と、事故の日から180日を過ぎたあとの通院には払いません。
計算のルール
- 後遺障害補償金は、1,500万円に別表第二の割合を掛けます。たとえば一耳の聴力を全く失ったときは30%なので、450万円です。限度は旅行者1名・1企画旅行につき1,500万円です
- 入院見舞金と後遺障害補償金(または死亡補償金)を重ねて払うときは、合計額を払います
- 死亡補償金は、すでに払った後遺障害補償金があれば、その額を引いた残額です
- 入院日数と通院日数がどちらも1日以上あるときは、入院見舞金と通院見舞金のうち金額の大きいほうだけを払います(規程10条)。通院見舞金のほうは、入院日数を通院日数に足した日数で計算します
計算例
足を骨折して5日入院し、退院後に10日通院したとします。入院見舞金は、7日未満なので2万円です。通院見舞金は、入院5日と通院10日を足した15日で計算するので、7日以上90日未満の2万5千円です。大きいほうの2万5千円だけが支払われます。同じけがで入院が8日なら、入院見舞金は5万円で通院見舞金より大きいので、5万円です。
携帯品損害補償 — 身の回り品の損害
特別補償には、身の回り品の損害に払う携帯品損害補償もあります(規程16条〜23条)。企画旅行参加中の偶然な事故で、旅行者が所有し携行している身の回り品が壊れたり盗まれたりしたときに、損害補償金を払います。
補償対象品にならないもの(18条2項)
身の回り品でも、次のものは補償対象品に含まれません。
- 現金、小切手その他の有価証券、印紙、切手
- クレジットカード、クーポン券、航空券、パスポート
- 稿本、設計書、図案、帳簿など(磁気ディスクなどに記録されたものを含む)
- 船舶(ヨット、モーターボート、ボートを含む)、自動車、原動機付自転車とその付属品
- 山岳登はん用具、探検用具など
- 義歯、義肢、コンタクトレンズなど
- 動物と植物
- そのほか旅行会社があらかじめ指定するもの
計算例
ツアー1日目の事故で、カメラ(価額14万円、修理不能)とスーツケース(価額3万円、修繕費1万8千円)が壊れたとします。カメラは1個で10万円を超えるので損害額を10万円とみなし、スーツケースは低いほうの修繕費1万8千円です。合計11万8千円で、限度15万円の範囲内なので、そのまま支払われます。
2日目の日傘の事故(損害額2,500円)は、3,000円を超えないので払われません。3日目に別の事故でタブレットが壊れ、損害額が5万円なら、1日目の分と合わせて16万8千円になりますが、限度は15万円です。すでに11万8千円を受け取っているので、3日目の分として払われるのは3万2千円です。3,000円は1回の事故ごと、15万円は1つの企画旅行ごとに判定します。
補償金・見舞金を支払わない場合
身体の傷害について払わない主な場合は、規程3条〜5条に挙がっています。
故意や無免許運転などでも、旅行者以外の人が受けた傷害には払います。危険な運動は、旅行日程に含まれていればそのけがに払い、日程外の参加中に同種の運動で受けたけがにも払います。自由時間に自分で申し込んだ運動は、日程に含まれないので払われません。
携帯品損害補償を払わない場合(17条)は、故意や無免許運転などが共通するほか、次のものがあります。
- 補償対象品の瑕疵(もともとの欠陥)、自然の消耗、さび、かび、虫食い
- 単なる外観の損傷で、機能に支障がないもの
- 置き忘れまたは紛失
- 補償対象品である液体の流出(ただし、それで他の補償対象品に生じた損害には払う)
- 国内旅行では、地震・噴火・津波による損害
旅行者と世帯を同じくする親族が故意に壊したときは、旅行者に損害補償金を受け取らせる目的でなかった場合を除き、払いません。うっかり壊したとき(過失)は、17条に挙がっていないので払います。
第三者への損害賠償請求権の扱い
事故の相手に過失があるとき、旅行者は相手に損害賠償を請求できます。この請求権は、補償金を払った旅行会社に移るかどうかが身体と携帯品で違います。
試験での問われ方と覚え方
特別補償は、数字と「例外」を問う問題が中心です。次の順に押さえると整理しやすくなります。
- 責任の有無を問わない(損害賠償との違い)
- 参加中の始まりと終わり(手続の完了時・改札終了時・乗車時など)
- 金額(死亡1,500万円、入院2万〜20万円、通院1万〜5万円、携帯品15万円)
- 重ねて払うか、大きいほうだけか(後遺障害や死亡との合計、入院と通院は大きいほう)
- 払わない場合(国内は地震・噴火・津波、他覚症状のないむちうち、置き忘れ・紛失)
旅程保証(変更補償金)との混同にも注意が必要です。変更補償金は契約内容の重要な変更に払うもので、特別補償は事故による損害に払うものです。旅程保証は旅程保証の記事で整理しています。
特別補償の約款は、条番号と数字をセットで覚える必要があるため、計算例を自分で作って解くのが近道です。国内旅行業務取扱管理者講座では、特別補償を2つの授業に分けて、計算例を使って解説しています。
よくある質問
Q. 特別補償は、旅行会社に責任がなくても払われますか。
はい。旅行会社の責任が生じるかどうかを問わず、企画旅行参加中の事故なら、あらかじめ決めた額が払われます(募集型28条1項)。
Q. 入院と通院の両方をしたら、見舞金は両方もらえますか。
いいえ。入院日数と通院日数がどちらも1日以上あるときは、入院見舞金と通院見舞金のうち金額の大きいほうだけが払われます(規程10条)。
Q. 旅行中にスマホをなくしたら、携帯品損害補償の対象ですか。
いいえ。置き忘れや紛失は、損害補償金を払わない場合に挙がっています(規程17条1項11号)。
Q. 地震でけがをしたときは補償されますか。
国内旅行を目的とする企画旅行では、地震・噴火・津波による傷害には補償金等を払いません(規程4条)。携帯品の損害も同様です。
まとめ
- 特別補償は、旅行会社の責任の有無を問わず、企画旅行参加中の事故に決まった額を払う制度
- 国内旅行は死亡補償金1,500万円、入院見舞金2万〜20万円、通院見舞金1万〜5万円。入院と通院は大きいほうだけ
- 携帯品は1名・1企画旅行で15万円まで、1個または1対は10万円とみなし、1回3,000円以下は払わない
- 国内旅行の地震・噴火・津波、置き忘れ・紛失、他覚症状のないむちうち症は払わない