「貸した100万円の時効が近い。どうすれば完成を止められるのか」。貸金業の実務でも、貸金業務取扱主任者試験の民法でも、必ず出てくる疑問です。答えは、時効の完成を先送りする「完成猶予」と、期間をゼロから数え直す「更新」の2つの仕組みです。この記事では、どの事由がどちらになるのかを、民法の条文に沿って表で整理します。
条文は2026年11月6日にe-Gov法令検索で確認した内容に基づきます。試験は受験年度の法令が基準になるため、最新の情報は日本貸金業協会の公式サイトでご確認ください。
結論:完成猶予は「先送り」、更新は「数え直し」
先に2つの違いを表にします。
たとえば、返済期限が令和8年4月1日の貸付金は、期限の翌日から数えて5年で時効が完成します(民法166条1項1号。貸金業者は期限を知っていますから、知った時から5年が先に満了します)。この進行の途中で、完成猶予か更新が起きると、完成のタイミングが変わります。
更新になるのは、裁判所の手続で権利が確かめられた場合か、債務者が自分で借金を認めた場合です。この見方をつかむと、事由の取り違えが減ります。
事由ごとの対応表:猶予か、更新か
試験で最も問われるのがこの対応です。条文とあわせて整理します。
「猶予のみ」と書いた事由は、それだけでは数え直しになりません。更新まで進めるには、あらためて裁判上の請求などが必要です。
裁判上の請求:確定すれば更新、確定しなければ6か月の猶予
貸金業者Aが顧客Bに対して訴えを起こすと、その事由が終了するまで時効は完成しません(民法147条1項)。訴訟が何年続いても、その間に時効が完成することはありません。
終わり方によって、結果が分かれます。
さらに、確定判決などで確定した権利は、もともと10年より短い時効期間のものでも、時効期間が10年になります(169条1項)。ただし、確定の時に弁済期が来ていない債権には、この規定は適用されません(同条2項)。
催告:猶予は6か月だけ、繰り返しても延びない
催告とは、裁判所を通さずに支払いを求めることです。内容証明郵便で返済を請求するのが代表例です。
民法150条1項は、催告があった時から6か月を経過するまで時効は完成しないと定めています。時効の完成が目前に迫っているときに、時間をつくる手段になります。ただし、ここで注意が2点あります。
- 催告は完成猶予の事由であり、数え直しにはなりません
- 催告による猶予の間にされた再度の催告には、完成猶予の効力がありません(同条2項)。催告を繰り返しても、いつまでも延ばせるわけではありません
6か月の間に裁判上の請求などをすれば、そこから147条の猶予に進めます。催告だけで終わると、6か月の先送りにしかなりません。
承認:借金があると認めれば更新
承認とは、債務者が借金の存在を認めることです。一部の弁済、利息の支払い、「少し待ってほしい」という猶予の申入れなどが、承認にあたると整理されます。民法152条1項は、権利の承認があったときは、その時から新たに時効が進行を始めると定めています。
また、承認をする側に、相手方の権利を処分する能力や権限は要りません(同条2項)。たとえば、被保佐人のような行為能力の制限を受けている人が承認しても、時効は更新されます。
時効が完成したあとに債務者が承認した場合は、更新の話とは別に、その後は時効を援用できなくなります(判例の考え方)。完成前の「更新」と、完成後の「援用できなくなる」は、区別して覚えましょう。
仮差押え・協議の合意・天災:いずれも猶予にとどまる
仮差押え・仮処分(149条)
判決を待つ間に債務者の財産が処分されないよう、先に押さえておく手続です。終了した時から6か月を経過するまで時効は完成しませんが、更新にはなりません。仮差押えをすれば数え直しになる、という理解は誤りです。
強制執行(148条)
強制執行や担保権の実行は、手続が終了すると新たに進行を始めます(更新)。ただし、申立ての取下げや、法律の規定に従わないことによる取消しで終了した場合は更新にならず、終了から6か月の完成猶予にとどまります。
協議を行う旨の合意(151条)
当事者が権利について協議を行う旨を書面で合意すると、次のうち最も早い時まで時効は完成しません。
再度の合意もできますが、効力は本来の時効の完成すべき時から通じて5年を超えられません。また、催告による猶予中の合意や、合意による猶予中の催告には、それぞれ猶予の効力がありません(同条3項)。電磁的記録による合意は書面とみなされます(同条4項)。
天災などによる猶予(161条)
時効の期間の満了の時に、天災などで裁判上の請求や強制執行の手続を行えないときは、障害が消滅した時から3か月を経過するまで時効は完成しません。
試験での問われ方と覚え方
出題では、事由と効果を入れ替えた選択肢が使われがちです。次の3点を押さえると整理しやすくなります。
- 更新の3つ:確定した裁判上の請求等、強制執行の終了、承認。それ以外は原則として「猶予のみ」
- 6か月の4つ:催告、仮差押え・仮処分、権利が確定しなかった裁判上の請求等、取下げ等で終わった強制執行
- 期間の数字:催告6か月、協議の合意は最長1年(再合意を含め通算5年まで)、天災3か月、確定した権利の時効期間10年
民法の他の論点もあわせて固めたい方は、無権代理と表見代理の違いも参考にしてください。貸金業務取扱主任者講座では、時効の授業で、貸金業者A・顧客B・保証人Cの3人の登場人物を使って、起算点から援用、完成猶予・更新までを順に確認できます。
よくある質問
Q. 内容証明郵便で請求すれば、時効は数え直しになりますか。
いいえ。内容証明郵便による請求は催告にあたり、完成猶予(その時から6か月)にとどまります。数え直しにはなりません。
Q. 債務者が1万円だけ返したら、時効はどうなりますか。
一部の弁済は借金の存在を認めるものとして承認にあたると整理され、その時から新たに時効が進行を始めます(更新)。
Q. 裁判で訴えを取り下げたら、時効はどうなりますか。
権利が確定しないまま終了した場合は更新にならず、終了から6か月を経過するまで完成しません(147条1項)。その間に改めて手続をとる必要があります。
まとめ
- 完成猶予は先送り、更新は数え直し。進んだ期間が消えるのは更新だけ
- 更新は、確定した裁判上の請求等・強制執行の終了・承認
- 催告・仮差押え・協議の合意・天災は猶予のみ。催告は6か月で、再度の催告に猶予の効力はない
事由ごとに「猶予か更新か」「猶予なら何か月か」を表で覚え、条文の数字(147〜152条・161条)と結びつけておけば、時効の問題で迷いにくくなります。