国内旅行業務取扱管理者試験の法令科目では、旅行業務取扱管理者の「選任」と「職務」が毎回のように問われます。条文の数字が多く、「営業所ごとか、会社ごとか」「職務に入るか、会社の義務か」で迷いやすい論点です。この記事では、e-Gov法令検索で確認した現行の旅行業法と施行規則をもとに、選任のルール、選べる管理者の種類、兼任の特例、職務の一覧を表で整理します。
条文は2026年10月25日にe-Gov法令検索で確認した現行のものです。法令は改正されることがあるため、受験するときは試験の基準日の時点で適用される条文を確認してください。
旅行業務取扱管理者の選任は「営業所ごとに1人以上」
旅行業法11条の2第1項は、旅行業者と旅行業者代理業者(あわせて「旅行業者等」)に、営業所ごとに1人以上の旅行業務取扱管理者を選任するよう求めています。管理者は、その営業所の旅行業務について、次のようなことを確保するために、管理と監督の事務を行います。
- 取引条件がはっきりしていること(取引条件の明確性)
- 旅行のサービスが確実に提供されること(提供の確実性)
- 取引が公正であること、旅行が安全であること、旅行者の便利が保たれること
ポイントは「会社ごと」ではなく「営業所ごと」だという点です。会社に管理者が1人いても、営業所が3つあれば原則として3人必要です。また、同条3項は、旅行業務を取り扱う人が1人だけの営業所にもこの規定が当てはまると定めています。小さな営業所だから選任しなくてよい、という理屈は通りません。
登録の段階でも、営業所ごとに管理者を確実に選任すると認められない人は、登録を拒否されます(旅行業法6条1項9号)。
| 場面 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 選任の原則 | 11条の2第1項 | 営業所ごとに1人以上を選任する |
| 1人営業所 | 11条の2第3項 | 取り扱う人が1人でも選任が必要 |
| 管理者が全員いなくなったとき | 11条の2第2項 | 新しく選任するまで、その営業所で旅行業務に関する契約を締結できない |
| 登録の拒否 | 6条1項9号 | 営業所ごとの選任が確実とは認められない人は登録を拒否される |
どの試験の合格者を選べるかは、営業所が扱う旅行で決まる
管理者になれるのは、総合旅行業務取扱管理者試験、国内旅行業務取扱管理者試験、地域限定旅行業務取扱管理者試験のいずれかに合格した人です。どの試験の合格者を選べるかは、その営業所が扱う旅行によって次のように決まります(11条の2第6項)。
| 営業所が扱う旅行 | 選任できる管理者 |
|---|---|
| 海外の旅行も扱う(下の2つ以外) | 総合旅行業務取扱管理者試験の合格者だけ |
| 日本国内の旅行だけを扱う | 総合または国内の合格者 |
| 営業所の所在地などの拠点区域内の旅行だけを扱う | 総合・国内の合格者、または当該営業所の所在地域に係る地域限定の合格者 |
拠点区域とは、施行規則1条の3の定めによると、営業所のある市町村の区域、これに隣接する市町村の区域、そして観光庁長官の定める区域をまとめた範囲です。地域限定の合格者は、その営業所の所在する地域に係る試験に合格した人に限られます。
国内旅行業務取扱管理者の資格で選任してもらえるのは、「国内の旅行だけを扱う営業所」と「拠点区域内の旅行だけを扱う営業所」です。海外の旅行を扱う営業所では、手配旅行や相談だけであっても、総合の合格者が必要になります。
試験では「第1種旅行業者の営業所だから総合でなければならない」「募集型企画旅行を扱わないから国内でよい」といった文章が出ます。判断のものさしは、会社の登録の種別ではなく、その営業所が扱う旅行の範囲です。
他の営業所との兼任は原則できない。特例は3条件がそろうとき
管理者は、他の営業所の管理者になることができません(11条の2第4項)。ただし、選任が必要な営業所が複数あって近接しているときは、5項の特例で、複数の営業所を通じて1人で足りるとされています。
特例が使えるのは、次の条件がそろうときです。条件1は施行規則10条の2、条件2・3は10条の3から導かれます。
| 条件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 近接していること | 営業所間の距離の合計が40キロメートル以下 | 施行規則10条の2 |
| 業務範囲 | 登録業務範囲が地域限定旅行業務であること(旅行業者代理業者は、代理する旅行業者の登録業務範囲で判断) | 施行規則10条の3第1号 |
| 取引額 | 複数の営業所の前事業年度の旅行者との取引額の合計が1億円以下 | 施行規則10条の3第2号 |
10条の3は「次の場合は特例の対象にならない」という書き方になっています。つまり、登録業務範囲が地域限定旅行業務以外であるとき、または取引額の合計が1億円を超えるときは、特例の対象になりません。裏返すと、地域限定旅行業務で、取引額の合計が1億円ちょうどまでなら使える、ということです。
特例を使うときは、手続きも決まっています(施行規則10条の4)。
- 使おうとするとき: あらかじめ、取引額報告書を登録行政庁に提出する
- 使っている間: 毎事業年度の終了後100日以内に、取引額報告書を提出する
数字の例で確かめる
地域限定旅行業務の登録を受けた会社が、本店(前事業年度の取引額6,000万円)と駅前営業所(同3,000万円)を持ち、2つの営業所の距離が25キロメートルだとします。
- 距離: 25キロメートルで、40キロメートル以下
- 登録業務範囲: 地域限定旅行業務
- 取引額: 6,000万円+3,000万円=9,000万円で、1億円以下
3つともそろうので、1人の管理者で2つの営業所を担当できます。取引額の合計が1億2,000万円だったら、距離が近くても特例の対象外で、営業所ごとに管理者が必要です。数字は「営業所ごと」ではなく「合計」で見る点に注意してください。
管理者の職務は施行規則10条の10項目
11条の2第1項は、管理と監督の対象を「国土交通省令で定める事項」としています。これが施行規則10条で、1号から10号まで挙げられています。
| 号 | 管理・監督する事項 |
|---|---|
| 1号 | 旅行に関する計画の作成 |
| 2号 | 料金の掲示(法12条) |
| 3号 | 旅行業約款の掲示と備置き(法12条の2第3項) |
| 4号 | 取引条件の説明(法12条の4) |
| 5号 | 書面の交付(法12条の5) |
| 6号 | 広告(法12条の7・12条の8) |
| 7号 | 企画旅行の円滑な実施のための措置(法12条の10) |
| 8号 | 旅行に関する苦情の処理 |
| 9号 | 契約の年月日・契約の相手方などの重要な事項の明確な記録、または関係書類の保管 |
| 10号 | ほか、取引の公正・旅行の安全・旅行者の利便の確保に必要な事項として観光庁長官が定めるもの |
覚え方は、旅行の流れに沿って並べることです。「計画→料金・約款の掲示→説明→書面→広告→旅程管理→苦情→記録」の順に言えれば、9号まで抜けなく言えます。9号の記録は、旅行者との契約だけでなく、旅行サービスを提供する者(宿泊施設や運送機関など)との契約も対象です。
管理者がやるのは「自分で全部を行うこと」ではなく、営業所の従業員がこれらを正しく行っているかを管理し、監督することです。
「職務に入るか」で迷いやすいもの
試験では、列挙にないものを職務として出題する形がよく見られます。次の整理で見分けられます。
| 事項 | 管理者の職務か | 考え方 |
|---|---|---|
| 料金・約款の掲示と備置き | 職務(2号・3号) | 取引条件を示すための掲示 |
| 苦情の処理 | 職務(8号) | 旅行後の対応も含む |
| 旅程管理に関する措置 | 職務(7号) | 企画旅行の円滑な実施のための措置 |
| 営業所の標識の掲示、登録事項の変更の届出、営業保証金の供託 | 職務の列挙にはない | 会社(旅行業者等)としての義務 |
| 旅行者から請求されたときの証明書の提示 | 職務の列挙にはない | 管理者本人の義務(法12条の5の2) |
同じ「掲示」でも、料金と約款の掲示は10条の職務に入ります。しかし標識(登録を受けた業者であることを示す標識)の掲示は会社の義務で、10条の列挙にはありません。また、証明書の提示は旅行業法12条の5の2で管理者本人に義務づけられていますが、これも施行規則10条の1〜10号には入っていません。「職務(営業所の業務を管理・監督すること)」と「管理者本人の義務」を分けて覚えます。
研修は5年ごと
旅行業者等は、管理者に、法令や旅程管理など職務に必要な知識と能力を向上させるための研修を、定期的に受けさせなければなりません(11条の2第7項)。受講の間隔は、法律では「3年以上5年以内で省令で定める期間」とされ、施行規則10条の6が5年と定めています。研修は、旅行業協会が実施するものです。
さらに同条10項は、苦情の解決に関する講習を受講させるなど、知識と能力を高める措置を講ずるよう努める義務(努力義務)を旅行業者等に課しています。5年ごとの研修は義務、10項の措置は努力義務、と区別してください。
なお、観光庁長官は、7項を守っていない旅行業者等に必要な措置の勧告ができ、従わないときは命令ができます(8項・9項)。
勉強の進め方と授業への導線
選任と職務は、数字と列挙を覚えれば得点しやすい分野です。次の順で確認すると定着します。
- 営業所ごとに選任すること、1人営業所にも適用されることを言える
- 営業所が扱う旅行の範囲ごとに、選べる管理者の種類を表に書ける
- 兼任の特例の3条件(40キロメートル以下・地域限定旅行業務・1億円以下)と報告書の提出時期を言える
- 施行規則10条の列挙を流れで言い、職務に入らないものを区別できる
登録の種別と業務範囲を先に押さえると、選任の条件が理解しやすくなります。種別の整理は旅行業の登録の種別と業務範囲の記事、営業保証金などの会社の義務は営業保証金と弁済業務保証金の記事、試験全体の配点と合格基準は試験の基本の記事で整理しています。
国内旅行業務取扱管理者講座では、旅行業務取扱管理者の選任と職務を、営業所の事例に当てはめながら学べる授業を用意しています。AI講師トーレスに、条文の読み方で迷ったところを質問することもできます。
よくある質問
Q. 営業所が3つある会社は、管理者が3人必要ですか?
原則は必要です。管理者は他の営業所の管理者を兼ねられません。ただし、地域限定旅行業務の登録で、距離の合計が40キロメートル以下、前事業年度の取引額の合計が1億円以下なら、1人で足りる特例があります。
Q. 1人しかいない営業所でも管理者の選任は必要ですか?
必要です。旅行業法11条の2第3項が、旅行業務を取り扱う人が1人の営業所にも適用されると定めています。
Q. 国内旅行業務取扱管理者の合格者は、海外旅行を扱う営業所の管理者になれますか?
なれません。海外の旅行を扱う営業所では、総合旅行業務取扱管理者試験の合格者を選任する必要があります。
Q. 管理者の研修は何年ごとですか?
5年ごとです。法律上は3年以上5年以内の範囲で省令が定めるとされ、施行規則10条の6が5年としています。
まとめ
管理者の選任は営業所ごとに1人以上で、1人営業所にも適用されます。選べる管理者の種類は、営業所が扱う旅行の範囲で決まります。兼任の特例は、距離の合計40キロメートル以下・地域限定旅行業務・取引額の合計1億円以下の3つがそろうときだけです。職務は施行規則10条の1〜10号で、標識の掲示などの会社の義務や、証明書の提示という管理者本人の義務とは分けて覚えます。研修は5年ごとです。
「営業所ごと」「合計で見る」「列挙にあるかどうか」の3つの言葉で、選任と職務の問題の多くは整理できます。条文の数字は、試験の基準日の時点のものをANTAの受験案内や法令検索で確認してください。

