マンションの区分所有者は、毎月「管理費」と「修繕積立金」を管理組合に納めます。どちらも共用部分などの管理のためのお金ですが、使い道が違い、混ぜて使うことはできません。マンション管理士試験では、「この支出はどちらから出すか」「修繕積立金を取り崩せるのはどんな場合か」という形でよく問われます。
この記事では、国土交通省が公表している令和7年10月17日改正の標準管理規約(単棟型)に沿って、二つの違いを整理します。条番号は、この改正後の規約のものです。
管理費と修繕積立金は何が違う?
結論は、管理費は日常の管理に、修繕積立金は計画的・臨時の大きな管理に使うお金です。標準管理規約25条は、敷地や共用部分等の管理に要する経費に充てるため、区分所有者が管理費と修繕積立金の二つ(あわせて「管理費等」)を納めると定めています。
| 項目 | 管理費 | 修繕積立金 |
|---|---|---|
| 充てる経費 | 通常の管理に要する経費 | 特別の管理に要する経費 |
| 使い道を定める条文 | 27条(11の号) | 28条1項(6つの号) |
| 主な例 | 管理員の人件費、清掃費、保険料、役員活動費 | 計画修繕、不測の事故による修繕、改良・変更 |
| 経理 | 修繕積立金とは別の会計 | 管理費とは区分して経理(28条4項) |
| お金の性質 | 毎年度の管理の経費に充てる | 将来に備えて積み立て、決められた場合に限って取り崩す |
大切なのは、修繕積立金は区分経理しなければならないことです(28条4項)。同じ管理組合の会計でも、管理費の財布と修繕積立金の財布は別々です。
管理費に充てる経費は27条の11項目
27条は、管理費に充当する経費を次のように並べています。覚えるときは、前半の「設備と事務」と後半の「清掃・委託・運営」に分けると整理しやすくなります。
| 号 | 経費 |
|---|---|
| 1号 | 管理員人件費 |
| 2号 | 公租公課(税金など) |
| 3号 | 共用設備の保守維持費・運転費 |
| 4号 | 備品費、通信費その他の事務費 |
| 5号 | 共用部分等に係る火災保険料・地震保険料その他の損害保険料 |
| 6号 | 経常的な補修費 |
| 7号 | 清掃費、消毒費、ごみ処理費 |
| 8号 | 委託業務費 |
| 9号 | 専門的知識を有する者の活用に要する費用 |
| 10号 | 管理組合の運営に要する費用 |
| 11号 | その他32条に定める業務に要する費用(28条に規定する経費を除く) |
10号の「運営に要する費用」には、役員活動費も含まれます(27条関係コメント)。ただし、役員は区分所有者全員の利益のために活動するので、金額は適正な水準にするとされています。また、5号の損害保険料は、試験で「修繕積立金から出す」という誤りの選択肢にされやすいところです。保険料は管理費の項目です。
修繕積立金を取り崩せるのは6つの場合だけ
修繕積立金は、積み立てた後は28条1項の各号に当たる場合に限って取り崩せます。
| 号 | 取り崩せる場合 |
|---|---|
| 1号 | 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕 |
| 2号 | 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕 |
| 3号 | 敷地及び共用部分等の改良又は変更 |
| 4号 | マンション再生等(建替え・建物の更新・建物敷地売却・建物取壊し敷地売却・取壊し)の合意形成に必要となる事項の調査 |
| 5号 | 修繕積立金の管理及び運用 |
| 6号 | その他、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理 |
押さえておきたい点が3つあります。
- 準備段階の費用も含む:1号から3号には、実際の工事費のほか、工事の計画立案、工事履歴等の調査、設計などの準備段階の費用も含まれます(28条関係コメント)。
- 5号の費用は管理費からも出せる:5号は、残高証明書などの帳票発行手数料、融資を使うときの保証料、工事代金を払うときの振込手数料などを想定したものです。コメントは、この費用は取崩しの対象として規定せず、管理費から支出することもできると述べています。
- 取り崩すには総会の決議が要る:28条1項の特別の管理の実施と、そのための修繕積立金の取崩しは、総会の決議事項です(48条10号)。
再生等の決議の後の取崩し(28条2項)
建替え決議などの「マンション再生等に係る決議」を経た後、または区分所有者全員の合意をした後でも、再生組合などの設立の認可等を得るまでの間は、事業の計画や設計等に必要な経費に充てるために修繕積立金を取り崩せます。ただし、取壊し以外のマンション再生等では、管理組合の消滅時にその事業に参加しない区分所有者に帰属する修繕積立金相当額を除いた金額が限度です。この取崩しも総会の決議事項です(48条15号)。
この支出はどちらから出す? 振り分けの早見表
試験でいちばん多い形が、具体的な支出を挙げて「管理費か修繕積立金か」を問うものです。次の表で判断の軸をつかんでください。
| 支出 | 出せる会計 | 理由 |
|---|---|---|
| 共用部分の火災保険料・地震保険料 | 管理費 | 27条5号 |
| 管理員の人件費、清掃費 | 管理費 | 27条1号・7号 |
| 経常的な補修(日常的な小さな直し) | 管理費 | 27条6号 |
| 総会・理事会の運営費、役員活動費 | 管理費 | 27条10号 |
| 外壁など一定年数ごとの計画修繕の工事 | 修繕積立金 | 28条1項1号 |
| 災害で壊れた共用部分の修繕 | 修繕積立金 | 28条1項2号(不測の事故その他特別の事由) |
| 共用部分の改良・変更の工事 | 修繕積立金 | 28条1項3号 |
迷ったときは、「毎年くり返し出る通常の経費か」「一定年数ごとの計画修繕や、不測の事態・改良のための特別の経費か」と考えます。なお、修繕積立金は管理費と区分して経理する決まりで、取り崩せる場合も28条1項で限られているため、管理費の不足を埋めるために使うことは想定されていません。
診断・調査の費用は、目的で変わる
同じ「診断」でも、何のために行うかで出せる会計が変わります。標準管理規約のコメントに、次の整理があります。
| 費用 | 出せる会計 |
|---|---|
| 長期修繕計画の作成・変更の費用、そのための劣化診断(建物診断)の費用 | 管理組合の財産状態等に応じて、管理費・修繕積立金のどちらからでも |
| 修繕工事の前提として行う劣化診断(建物診断)の費用 | 修繕工事の一環なので、原則として修繕積立金 |
| マンション再生等の合意形成に必要な調査の費用 | 28条1項4号で修繕積立金。規約で定めれば管理費から支出することもできる(28条関係コメント⑨) |
「長期修繕計画のための診断」と「修繕工事のための診断」は、名前が似ていて取り違えやすい組合せです。前者はどちらの会計でもよく、後者は原則として修繕積立金、と対にして覚えましょう。
負担の割合は共有持分。使用頻度は関係ない
管理費等の額は、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出します(25条2項)。エレベーターをよく使う人が多く払う、という仕組みではありません。コメントも、負担割合を定めるときに使用頻度等は勘案しないと述べています。
区分所有法19条も、各共有者は「規約に別段の定めがない限りその持分に応じて」共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取すると定めています(e-Gov で現行の条文を確認しました)。標準管理規約はこの原則に沿った規定です。
議決権との関係にも注意が必要です。議決権を一戸一議決権や価値割合にしている場合でも、管理費等の負担額は、これとは別に共用部分の共有持分に応じて算出することが考えられる、とされています(25条関係コメント)。「一戸一議決権なら負担も均等」と決めつけないことが大切です。
額は総会の決議で決めます(48条6号)。理事会だけでは決められません。
管理費に入らないお金:自治会費など
管理組合は、区分所有者全員で構成する強制加入の団体です。居住者が任意に加入する自治会・町内会とは性格が違います。標準管理規約のコメントは、次のように整理しています。
- 美化・清掃、防災・防犯、生活ルールの調整など、管理の範囲内で行われる活動の費用は、管理費から出せる
- 自治会費・町内会費は、居住者が任意に負担するものなので、管理費等とは別のもの
- 自治会費を管理費等と一体で徴収する場合は、加入を強制しない、加入を希望しない人からは徴収しない、管理費とは区分経理する、などに留意する
- 一部の人だけが対象のクラブ・サークル活動や、主に親睦を目的とする飲食の経費は、管理費に充てず、参加者が直接払う
使用料・余剰・不足・滞納の扱い
| 場面 | 規約の定め |
|---|---|
| 駐車場使用料などの使用料 | その管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる(29条) |
| 収支決算で管理費に余剰 | 翌年度の管理費に充当する(61条1項) |
| 管理費等に不足 | 管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を求められる(61条2項) |
| 滞納 | 未払額に、遅延損害金・違約金としての弁護士費用等・督促及び徴収の諸費用を加算して請求できる(60条2項) |
| 滞納の法的措置 | 理事長が理事会の決議により、管理組合を代表して訴訟などを追行する(60条4項) |
| 滞納で徴収した遅延損害金等 | 27条に定める費用に充当する(60条6項) |
| 納入済みの管理費等 | 返還請求も分割請求もできない(60条7項) |
管理費の余剰は、翌年度の管理費に回します。修繕積立金に振り替えるとは書かれていません。ここも試験で狙われやすいところです。
試験での問われ方と覚え方
- 支出の振り分け:保険料・運営費・経常的補修は管理費、計画修繕・不測の事故の修繕・改良変更は修繕積立金
- 取崩しの範囲:28条1項の6つの号(準備段階の費用も含む)と、5号は管理費からも出せること
- 診断費用:長期修繕計画のためならどちらでも、修繕工事の前提なら原則修繕積立金
- 負担の割合:共有持分で算出、使用頻度は勘案しない、議決権とは連動させなくてよい
- 会計:修繕積立金は管理費と区分経理、使用料は管理に充てた残りを修繕積立金へ
出題の言い回しを暗記するよりも、条文の「通常の管理」と「特別の管理」という区分から、理由づけして答えを選べるようにしておくと、初見の問題にも対応できます。
授業・講座への導線
マンション管理士講座では、標準管理規約の章で、管理費等の負担、管理費に充てる経費、修繕積立金を取り崩せる場合、診断費用の振り分けを順に扱います。管理組合の会計の章とあわせて学ぶと、条文の知識と仕訳がつながります。料金は月額プラン4,980円/年額プラン39,800円(年額プランの月あたり3,317円)、いずれも税込です。最新の料金は講座ページで確認してください。
管理費等を総会で決める場面は、区分所有法の決議要件を1枚の表で整理した記事も参考になります。共用部分そのものの区分は、専有部分と共用部分の違いの記事で確認できます。
よくある質問
Q. 管理費が足りなくなったとき、修繕積立金から借りてよいですか?
標準管理規約では、修繕積立金は28条1項の特別の管理の経費に限って取り崩せるうえ、管理費とは区分して経理するとされています。管理費の不足は、管理費等の負担割合により、その都度必要な金額の負担を組合員に求める方法が規定されています(61条2項)。
Q. 修繕積立金の振込手数料は、管理費から出せますか?
出せます。28条1項5号の「修繕積立金の管理及び運用」の費用は、コメントで、取崩しの対象として規定せず管理費から支出することもできるとされています。
Q. 長期修繕計画をつくる費用は、どちらから出しますか?
管理組合の財産状態等に応じて、管理費・修繕積立金のどちらからでも出せます。ただし、修繕工事の前提として行う劣化診断の費用は、修繕工事の一環なので、原則として修繕積立金から取り崩します。
まとめ
- 管理費は通常の管理(27条)、修繕積立金は特別の管理(28条)。修繕積立金は管理費と区分して経理する
- 修繕積立金を取り崩せるのは28条1項の6つの場合。工事の準備段階の費用も含み、取崩しは総会の決議事項(48条10号)
- 長期修繕計画のための診断はどちらの会計でもよく、修繕工事の前提の劣化診断は原則として修繕積立金
- 負担は共用部分の共有持分で決め、使用頻度は勘案しない。額は総会の決議で決める
- 自治会費やサークル活動費は管理費に含めない。管理費の余剰は翌年度の管理費に充てる
管理費と修繕積立金は、「通常」と「特別」の区分が出発点です。支出の例を見たら条文の号に当てはめる練習を重ね、取崩しの6つの場合と診断費用の振り分けは、表ごと頭に入れておきましょう。なお、規約の内容は改正されることがあります。最新の標準管理規約は、国土交通省のサイトで確認してください。

