「他人の土地でも、長く使い続ければ自分のものになる」「お金を貸していても、長く放っておくと返してもらえなくなる」。どちらも時間の経過で権利関係が変わる制度で、民法の「時効」の話です。行政書士試験の民法では、取得時効と消滅時効の違いが基本問題から事例問題まで繰り返し問われます。
結論から言うと、取得時効は「権利を手に入れる」時効、消滅時効は「権利を失う」時効です。期間の数字が似ていて混ざりやすいので、この記事では2つを並べた表で整理したうえで、両方に共通するルール(援用・完成猶予・更新)まで押さえます。
この記事は、2026年10月25日に e-Gov 法令検索で確認した条文(同日時点の現行法令)に基づきます。試験は「試験を実施する日の属する年度の4月1日現在で施行されている法令」が基準と案内されているため、受験する年度の試験案内(行政書士試験研究センター)で確認してください。
取得時効と消滅時効の違いを一覧で比べる
まず全体像です。
| 項目 | 取得時効 | 消滅時効 |
|---|---|---|
| 何が起こるか | 権利を取得する | 権利が消滅する |
| 主な条文 | 162条(所有権)・163条(所有権以外の財産権) | 166条(債権等)・167条・168条・169条 |
| 必要な事実 | 一定期間、所有の意思をもって平穏・公然と占有を続けること | 一定期間、権利を行使しないこと |
| 期間 | 20年、または10年 | 債権は5年と10年(早い方)。債権・所有権以外の財産権は20年 |
| 対象になる権利 | 所有権・地上権・賃借権など(所有権以外は163条) | 債権・所有権以外の財産権(所有権そのものは消滅時効にかからない) |
所有権は、使わなくても消滅時効にかかりません。消滅時効の対象は「債権」と「債権・所有権以外の財産権」です(166条)。他人が取得時効で所有権を取得した結果として、元の所有者が所有権を失うことはあります。
取得時効:占有を続けた人が権利を取得する(162条)
所有権の取得時効には、2つの期間があります。
| 種類 | 期間 | 占有の始まりの時点での主観 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 長期取得時効 | 20年 | 問わない(悪意でもよい) | 162条1項 |
| 短期取得時効 | 10年 | 善意かつ無過失 | 162条2項 |
どちらも、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有することが必要です。条文のとおり、短期取得時効の善意・無過失は「占有の開始の時」に判断します。占有を始めたときに、自分の物だと信じ、そう信じることに落ち度がなければ、途中で他人の物だと知っても10年で取得できます。
所有権以外の権利の取得時効(163条)
地上権や賃借権のような所有権以外の財産権も、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使することで、162条の区別に従って20年または10年を経過した後に取得できます。所有権の「所有の意思」が、ここでは「自己のためにする意思」になっている点が違います。
「所有の意思」があるかどうかは、占有を始めた原因(たとえば、賃借人として借りて占有を始めたのか、買って占有を始めたのか)といった客観的な事情から判断されます。借りて使っているだけの人が、いくら長く使っても、そのままでは所有権の取得時効は進みません。
消滅時効:権利を行使しない状態が続くと権利が消える(166条)
債権の消滅時効は、次のどちらか早い方が経過した時に完成します。
| 区分 | 起算点 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 主観的起算点 | 債権者が権利を行使できることを知った時 | 5年間 | 166条1項1号 |
| 客観的起算点 | 権利を行使できる時 | 10年間 | 166条1項2号 |
一般の取引で生じる債権は、通常、債権者は権利を行使できることを知っているので、5年が先に来ます。10年の方は、債権者が知らないまま過ぎる場合に意味を持ちます。
債権以外・特別な定め
| 対象 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 債権・所有権以外の財産権 | 権利を行使できる時から20年 | 166条2項 |
| 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権 | 客観的起算点の期間が10年ではなく20年 | 167条 |
| 定期金債権 | 各債権を行使できると知った時から10年、行使できる時から20年 | 168条1項 |
| 確定判決などで確定した権利 | 10年より短い時効期間のものも10年 | 169条1項 |
不法行為による損害賠償請求権(724条・724条の2)
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、債権の一般ルールと数字が違います。
| 区分 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 被害者または法定代理人が損害および加害者を知った時から | 3年間 | 724条1号 |
| 不法行為の時から | 20年間 | 724条2号 |
| 人の生命・身体を害する不法行為で、知った時から | 5年間 | 724条の2 |
試験では「債権は5年・10年」と「不法行為は3年・20年」を取り違えさせる問題が作りやすいところです。表で自分の言葉に直して覚えておきましょう。
取得時効と消滅時効に共通するルール
時効の効力は起算日にさかのぼる(144条)
時効が完成すると、その効力は起算日にさかのぼります。取得時効なら占有を始めた時から所有者だったことになり、消滅時効なら権利は起算点にさかのぼって消えていたことになります。
時効は援用しないと効力が確定しない(145条)
時効の期間が過ぎても、当事者が援用(時効の利益を受けると主張すること)しなければ、裁判所はこれによって裁判をすることができません。消滅時効の場合、援用できるのは当事者のほか、保証人、物上保証人、第三取得者など、権利の消滅について正当な利益を有する者も含まれます。
時効の利益は、あらかじめ放棄できない(146条)
時効の利益は、時効完成前にあらかじめ放棄することはできません(146条)。債権者が債務者に「時効を主張しない」という約束を事前に結ばせることを許すと、時効制度が意味を失うためです。条文は「あらかじめ」放棄できないと定めているので、時効が完成した後なら放棄は可能という整理になります。
時効の完成猶予と更新
時効の進行を止めたいとき、民法は「完成猶予」と「更新」の2つの仕組みを用意しています。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 完成猶予 | 一定の事由がある間、時効が完成しない(期間が過ぎても完成を先延ばしにする) |
| 更新 | 一定の事由があると、それまで進んだ期間がリセットされ、新たに時効が進行を始める |
主な事由を並べると次のとおりです。
| 事由 | 完成猶予 | 更新 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 裁判上の請求 | あり(終了まで) | 確定判決などで権利が確定したとき | 147条 |
| 強制執行・担保権の実行 | あり(終了まで) | 申立ての取下げなどによる終了の場合を除く | 148条 |
| 仮差押え・仮処分 | あり(終了から6か月) | なし | 149条 |
| 催告 | あり(その時から6か月) | なし | 150条 |
| 協議を行う旨の合意(書面) | あり(原則、合意から1年など) | なし | 151条 |
| 権利の承認 | なし | あり | 152条 |
押さえたいのは次の3点です。
- 催告は、完成猶予だけで更新はしない。6か月の間に裁判上の請求などをしなければ、結局時効が完成します。催告によって猶予されている間にした再度の催告は、完成猶予の効力がありません(150条2項)
- 承認は更新の事由。債務者が「払います」「待ってください」と言うのは権利の承認にあたり、その時から時効が新たに進行します(152条1項)
- 承認をするのに、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないことや権限があることは要りません(152条2項)
試験での問われ方と覚え方
1. 数字の組み合わせを問う問題
「取得時効は20年と10年」「債権の消滅時効は5年と10年」「不法行為は3年と20年」「生命・身体の侵害は期間が長くなる」と、グループごとにまとめます。数字は暗記になりますが、次の2つの軸で整理すると混乱が減ります。
- 何の時効か(権利を得るのか、失うのか)
- 主観を問うのか(短期取得時効の善意無過失、債権の「知った時」)
2. 事例問題
事例問題では、いつから時効が進むか(起算点)、途中で時効が止まっていないか(完成猶予・更新)、誰が援用できるかが問われます。手順を決めて解くと安定します。
- 取得時効か消滅時効かを決める
- 起算点と期間を条文の表で確認する
- 途中に催告・裁判上の請求・承認などがなかったかを探す
- 時効の完成後に、援用されているかを確かめる
民法は条文の数字と要件を正確に押さえる科目です。講座で全体の流れから学びたい人は、行政書士講座のカリキュラムで、民法の授業の構成を確認できます。
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民法の別の論点も、条文を表にして整理すると覚えやすくなります。たとえば無権代理と表見代理の違いを表で整理した記事も参考にしてください。
よくある質問
Q. 取得時効は、悪意で占有を始めても成立しますか。
はい。占有開始時に善意無過失でなくても、20年間、所有の意思をもって平穏・公然と占有すれば所有権を取得できます(162条1項)。善意無過失が要るのは10年の短期取得時効です。
Q. 時効の期間が過ぎたら、自動的に権利が消えますか。
いいえ。時効は、当事者が援用しなければ、裁判所はこれによって裁判をすることができません(145条)。援用があって初めて効力が確定します。
Q. 催告をすれば時効は更新されますか。
いいえ。催告は、その時から6か月を経過するまで時効の完成を猶予するだけで、更新の効果はありません(150条1項)。
まとめ
- 取得時効は権利を得る制度、消滅時効は権利を失う制度。所有権の取得時効は20年、占有開始時に善意無過失なら10年(162条)
- 債権の消滅時効は、知った時から5年、行使できる時から10年の早い方(166条1項)。不法行為は知った時から3年、不法行為の時から20年(724条)
- 時効は起算日にさかのぼり(144条)、援用が必要(145条)で、あらかじめの放棄はできない(146条)
- 時効の進行を止める仕組みは、完成猶予と更新。催告は猶予のみ、承認は更新
数字と制度の仕組みを表で整理し、事例問題で起算点・猶予・更新・援用の順に確認する練習をすると、得点しやすい分野になります。

