行政処分に納得できず取消訴訟を起こしても、「そもそも訴えを起こせる条件を満たしていない」と判断されると、処分が適法かどうかの中身には入ってもらえません。この入り口の条件が訴訟要件です。行政書士試験の行政事件訴訟法では、処分性・原告適格・訴えの利益といった言葉の意味と、条文にある数字(期間など)がよく問われます。この記事では、行政事件訴訟法の条文(e-Gov法令検索で確認)に沿って、取消訴訟の訴訟要件を整理します。
結論から言うと、取消訴訟の主な訴訟要件は「何を対象にするか(処分性)」「誰が起こせるか(原告適格)」「起こす意味があるか(訴えの利益)」「誰を訴えるか(被告適格)」「いつまでに起こすか(出訴期間)」の5つです。覚えるときは、この5つの問いに分けて考えると頭が整理されます。
この記事は、2026年10月14日にe-Gov法令検索で確認した条文(同日時点の現行法令)に基づきます。試験は「試験を行う年度の4月1日現在施行の法令」が基準とされるため、受験する年度の試験案内(行政書士試験研究センター)と最新の条文を必ず確認してください。
訴訟要件とは何か
訴訟要件とは、訴えが「本案(中身)の審理」に進むために必要な条件です。条件を欠く訴えは、請求に理由があるかどうかを判断されずに、門前払い(却下)になります。反対に、訴訟要件を満たしたうえで、処分が違法ではないと判断されれば「棄却」、違法と判断されれば「認容(取消し)」になります。
| 結論 | 意味 | 判断されること |
|---|---|---|
| 却下 | 訴訟要件を欠く | 中身は判断されない |
| 棄却 | 訴訟要件はあるが、請求に理由がない | 処分は取り消されない |
| 認容 | 訴訟要件があり、請求に理由がある | 処分が取り消される |
「却下」と「棄却」の区別は、択一式でも記述式でも土台になる知識です。
5つの訴訟要件の全体像
まず、5つの訴訟要件を一覧にします。
| 訴訟要件 | 問い | 根拠 |
|---|---|---|
| 処分性 | 取消しを求める対象は「処分」か | 3条2項(処分の取消しの訴えの定義) |
| 原告適格 | 原告は取消しを求める資格があるか | 9条 |
| 訴えの利益 | 取り消してもらう実益が今もあるか | 9条1項かっこ書など |
| 被告適格 | 正しい相手を被告にしているか | 11条 |
| 出訴期間 | 期間内に提起したか | 14条 |
このほかに、どの裁判所に訴えるかという管轄や、法律が審査請求を先にするよう定めている場合の審査請求前置などもあります。この記事では、特に試験で問われやすい上の5つを順に見ていきます。
① 処分性:対象は「処分」か
取消訴訟のうち「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(裁決などを除く)の取消しを求める訴訟をいいます(3条2項)。そのため、取消訴訟を起こすには、取り消したい行為が「処分」でなければなりません。
処分に当たるかどうかが「処分性」の問題です。判例は、処分とは、公権力の主体である国や公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接、国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものという考え方を採っています。
ここで大事なのは、「直接」「法律上認められている」という点です。
- 営業許可や営業停止命令のように、相手方の権利義務を直接変える行為は、処分にあたります
- 行政の内部での手続や準備段階の行為は、国民の権利義務に直接影響しないので、原則として処分にあたりません
- 行政指導は、相手方に法的な義務を課すものではなく、従うかどうかは相手方の任意であるのが原則です。そのため、一般には処分にあたらないと整理されます
処分性が認められない行為を取消訴訟で争っても、訴えは却下されます。試験では、「この行為は処分性があるか」を判断させる出題が定番です。判断のカギは、国民の法的な地位に直接変動を生じさせるかどうかです。
② 原告適格:誰が起こせるか
取消訴訟は、処分または裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起できます(9条1項)。これが原告適格です。
かっこ書きにも注意が必要です。処分の効果が期間の経過その他の理由でなくなった後でも、なお処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者は、原告適格があります(9条1項かっこ書)。
処分の相手方か、第三者か
処分の相手方(たとえば営業許可を取り消された本人)は、通常、取消しを求める法律上の利益があります。
一方、相手方以外の第三者(たとえば、近隣に施設ができることで影響を受ける住民)は、法律上の利益があるかどうかを個別に判断します。この判断について、9条2項は、裁判所が次のことを考慮するよう定めています。
| 考慮する事項 | 内容 |
|---|---|
| 法令の文言 | 根拠法令の規定の文言のみによらない |
| 法令の趣旨・目的 | 目的を共通にする関係法令があれば、その趣旨・目的も参酌する |
| 利益の内容・性質 | 処分が法令に違反してされた場合に害される利益の内容・性質、害される態様・程度も勘案する |
つまり、根拠となる条文に「周辺住民の利益を守る」と書いてあるかどうかだけでなく、法律全体の目的や、害される利益の重大さまで見て判断する、ということです。
9条2項は「原告適格を広く認める方向で判断の材料を示した規定」と覚えると整理しやすくなります。「文言のみによることなく」という言葉が出てきたら、9条2項の内容だと考えてください。
取消しの理由の制限
原告適格とあわせて覚えたいのが、第10条第1項です。取消訴訟では、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができません。たとえば、他人の利益を守るための規定に違反しているというだけで、自分の利益に無関係な違法を主張しても、取消しの理由にはなりません。
他の訴訟の原告適格
原告適格は、取消訴訟以外の訴えにも定めがあります。
| 訴え | 原告適格 | 条文 |
|---|---|---|
| 取消訴訟 | 取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者 | 9条1項 |
| 無効等確認の訴え | 後続の処分で損害を受けるおそれのある者その他の法律上の利益を有する者で、現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの | 36条 |
| 不作為の違法確認の訴え | 処分または裁決についての申請をした者 | 37条 |
③ 訴えの利益:取り消す実益が今もあるか
原告適格があっても、判決で取り消してもらう実益が失われていれば、訴えは認められません。これを訴えの利益(狭義の訴えの利益)の問題と呼びます。
たとえば、取り消そうとする処分の効果が、期間の経過などで消えてしまった場合です。この場合も、原則として取消しの実益がないと考えられます。しかし、9条1項のかっこ書にあるとおり、処分の効果がなくなった後でも、取消しによってなお回復すべき法律上の利益があるなら、訴えを起こせます。
試験では、「処分の効果が消えたら必ず訴えは却下される」と断定した選択肢に注意してください。条文に「なお回復すべき法律上の利益を有する者を含む」とあるため、場合によっては訴えの利益が残ります。
④ 被告適格:誰を訴えるか
民事訴訟では、通常、行政庁ではなく「権利義務の主体」が当事者になります。取消訴訟でも同じで、処分または裁決をした行政庁が国または公共団体に所属する場合は、次の者を被告にします(11条1項)。
| 訴え | 被告 |
|---|---|
| 処分の取消しの訴え | 処分をした行政庁の所属する国または公共団体 |
| 裁決の取消しの訴え | 裁決をした行政庁の所属する国または公共団体 |
つまり、たとえば都道府県知事がした処分なら、被告は「知事」ではなくその都道府県です。ただし、処分または裁決をした行政庁が国または公共団体に所属しない場合は、その行政庁を被告にします(11条2項)。
国または公共団体を被告にする場合、訴状には、民事訴訟の例により記載すべき事項のほか、処分をした行政庁(または裁決をした行政庁)を記載します(11条4項)。そして、被告は遅滞なく、その行政庁を明らかにしなければなりません(同条5項)。処分をした行政庁は、その訴訟について、裁判上の一切の行為をする権限を持ちます(同条6項)。
⑤ 出訴期間:いつまでに起こすか
取消訴訟には、期間の制限があります(14条)。
| 区分 | 期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 主観的な期間 | 6か月 | 処分または裁決があったことを知った日から |
| 客観的な期間 | 1年 | 処分または裁決の日から |
どちらも、正当な理由があるときは、期間を過ぎても提起できます(14条1項・2項のただし書)。また、処分や裁決について審査請求ができる場合(または行政庁が誤って審査請求ができると教示した場合)に審査請求をしたときは、その審査請求をした者については、審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月、または裁決の日から1年が期間になります(14条3項)。
審査請求との関係は、別の記事で詳しく整理しています。
審査請求の期間(処分を知った日の翌日から3か月)と、取消訴訟の期間(知った日から6か月)は、数字も起算点も異なります。ここを入れ替えた選択肢は、定番の引っかけです。
試験での問われ方と覚え方
訴訟要件の分野で、特に意識したい点を整理します。
- 「却下」と「棄却」を区別する。訴訟要件を欠くと却下、中身を判断して理由がないと棄却です
- 原告適格は「法律上の利益」。単なる事実上の利益や、反射的な利益では足りないと整理するのが基本です。そのうえで、第三者については9条2項の考慮要素を押さえます
- 被告は原則として「国または公共団体」。行政庁ではありません(行政庁が国または公共団体に所属しない場合を除く)
- 出訴期間は、6か月と1年の2本立て。起算点が「知った日」か「処分の日」かを区別します。どちらも正当な理由による例外があります
- 審査請求は3か月、取消訴訟は6か月。同じ「不服」の手続でも、数字を入れ替えて問われます
択一式では、条文の文言を正確に覚えているかが勝負になります。数字だけでなく、「かっこ書」や「ただし書」に出てくる例外まで、条文で確認する習慣をつけましょう。
講座で学ぶには
行政書士試験は、行政法・民法で多くの配点を占めます(配点は行政法と民法で配点の6割で整理しています)。行政事件訴訟法は、条文の数字と用語の意味を丁寧に押さえる分野なので、条文を読み、表で比べる学習が合っています。
行政書士講座のページでは、講座の内容を確認できます。講座は制作中のため、最新の公開状況は講座ページでご確認ください。
まとめ
- 取消訴訟の主な訴訟要件は、処分性・原告適格・訴えの利益・被告適格・出訴期間の5つ
- 訴訟要件を欠くと「却下」、中身を判断して理由がなければ「棄却」
- 原告適格は「法律上の利益」。第三者は9条2項の考慮要素で判断し、10条1項により自己の法律上の利益に無関係な違法は主張できない
- 被告は原則として国または公共団体(11条1項)
- 出訴期間は、知った日から6か月・処分の日から1年。どちらも正当な理由があれば例外あり(14条)
訴訟要件は、条文の数字と用語を正確に覚えれば得点しやすい分野です。まずは5つの問いに分けて、表で整理するところから始めてみてください。

