国や自治体の行為で損害を受けたとき、お金による賠償を求める根拠になるのが国家賠償法(以下「国賠法」)です。行政書士試験の行政法では、1条(公務員の行為)と2条(公の営造物)の違いが、択一式で繰り返し問われます。この記事では、条文を e-Gov 法令検索で確認し、1条と2条の要件・求償権・関連する3条から6条までを表で整理します。
結論から言うと、1条は「人」(公権力の行使に当たる公務員)の違法な行為への責任、2条は「物」(道路・河川などの公の営造物)の設置・管理の瑕疵(かし)への責任です。この「人か物か」の区別を軸にすると、要件の違いが頭に入りやすくなります。
この記事は、2026年10月15日に e-Gov 法令検索で確認した条文(同日時点の現行法令)に基づきます。試験は「試験を行う年度の4月1日現在施行の法令」が基準とされるため、受験する年度の試験案内(行政書士試験研究センター)と最新の条文を必ず確認してください。
国家賠償法の全体像:6か条しかない
国賠法はとても短い法律で、本則は6か条です。まず全体を一覧にします。
| 条 | 内容 | ひとことで |
|---|---|---|
| 1条 | 公権力の行使に当たる公務員の違法行為による損害の賠償 | 「人」の責任 |
| 2条 | 公の営造物の設置・管理の瑕疵による損害の賠償 | 「物」の責任 |
| 3条 | 費用を負担する者の賠償責任と、内部での求償 | 誰が払うか |
| 4条 | 1条〜3条のほか、民法の規定による | 民法の補充 |
| 5条 | 民法以外の別の法律に別段の定めがあればそれによる | 特別法の優先 |
| 6条 | 外国人が被害者の場合は相互の保証があるときに限り適用 | 相互主義 |
1条と2条が基本の責任規定で、3条以下はそれを補う規定です。試験では1条・2条が中心ですが、3条〜6条も条文の言い回しを問われることがあるため、あわせて押さえておきます。
1条:公務員の違法な職務行為
1条1項が賠償責任を認める場面を、順に言い換えると次のとおりです。
- 責任を負うのは国または公共団体で、きっかけになるのは公務員の行為
- その行為は「公権力の行使」にあたるものであること
- 職務に関連して行われたこと
- 公務員に故意または過失があること
- 行為が違法であること
- それによって他人に損害が生じたこと
要件を分解すると、次の表のようになります。
| 要件 | 条文の言葉 | 押さえどころ |
|---|---|---|
| 主体 | 国または公共団体の公務員 | 国・公共団体が賠償の主体 |
| 行為 | 公権力の行使 | 権力的な行為に限られるか、広く公務全般を含むかが論点になる |
| 職務関連性 | その職務を行うについて | 職務の範囲に関連して行われた行為か |
| 主観 | 故意または過失 | 公務員に故意・過失が必要 |
| 違法性 | 違法に | 法令に違反していること |
| 結果 | 他人に損害を加えた | 損害と行為の間に因果関係が必要 |
求償権は「故意または重大な過失」のとき
1条2項は、公務員に故意または重大な過失があったとき、国または公共団体がその公務員に対して求償権を有すると定めています。つまり、軽い過失にとどまる場合は、国・公共団体は被害者に賠償しても、公務員個人には求償できません。
「過失」と「重大な過失」の線引きは、試験でよく狙われる細部です。1項は「故意または過失」、2項は「故意または重大な過失」と、言葉が違う点を意識してください。
公務員個人の責任
試験対策では、被害者が賠償を求める相手は国または公共団体であり、判例は公務員個人が被害者に対して直接責任を負わないという立場をとる、という点を押さえておきます(判例の詳細は裁判所の裁判例検索や過去問で確認してください)。条文でも、賠償責任を負うと書かれているのは「国又は公共団体」であり、公務員個人ではありません。
2条:公の営造物の設置・管理の瑕疵
2条1項は、道路、河川その他の公の営造物の設置または管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたとき、国または公共団体が賠償する責任を負うと定めています。
1条と違い、2条1項の条文には「故意」「過失」という言葉がありません。ここが最大の違いです。判例の考え方として、瑕疵とは営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう、と整理されています(試験では「通常有すべき安全性を欠く」という言い回しとあわせて覚える人が多い論点です)。
| 要件 | 条文の言葉 | 押さえどころ |
|---|---|---|
| 対象 | 道路、河川その他の公の営造物 | 国・公共団体が管理する物的施設 |
| 原因 | 設置または管理の瑕疵 | 作り方(設置)の欠陥も、維持の仕方(管理)の欠陥も含む |
| 主観 | 条文に故意・過失の要件はない | 1条との大きな違い |
| 結果 | 他人に損害を生じた | 瑕疵と損害の因果関係 |
求償権は「他に責任を負うべき者」がいるとき
2条2項は、損害の原因について他に責任を負うべき者があるときは、国または公共団体はその者に対して求償権を有する、と定めています。たとえば、工事を請け負った業者に原因があるような場合を想定すると理解しやすくなります。
1条2項(公務員への求償)と2条2項(他の責任者への求償)は、求償の相手も条件も違います。
1条と2条の比較表
ここまでを、1枚の表にまとめます。
| 比較項目 | 1条 | 2条 |
|---|---|---|
| 対象 | 公権力の行使に当たる公務員の行為 | 公の営造物の設置・管理 |
| 責任の原因 | 違法な職務行為 | 設置・管理の瑕疵 |
| 故意・過失 | 条文上必要(1項) | 条文に要件として書かれていない |
| 賠償責任を負う者 | 国または公共団体 | 国または公共団体 |
| 求償の条件 | 公務員に故意または重大な過失(2項) | 他に損害の原因について責に任ずべき者がある(2項) |
| 求償の相手 | その公務員 | その責任を負うべき者 |
「1条は人、2条は物」「1条は故意・過失が条文にある、2条にはない」「求償の条件は1条が故意・重過失、2条が他の責任者」の3点が、まず押さえる核です。
3条〜6条:補足規定を条文どおりに
3条:費用を負担する者も責任を負う
公務員の選任・監督や営造物の設置・管理に当たる者と、その費用を負担する者が異なるときは、費用を負担する者もまた賠償責任を負います(3条1項)。損害を賠償した者は、内部関係で責任ある者に対して求償権を有します(3条2項)。たとえば国が管理し、費用を都道府県が負担しているような場面が典型です。
4条:民法への橋渡し
国・公共団体の損害賠償責任は、1条から3条のほか、民法の規定によるとされています(4条)。たとえば、損害賠償の範囲や時効といった細部は、国賠法に特別な定めがなければ民法の一般ルールで処理されます。
5条:別の法律が優先する
民法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによります(5条)。国賠法より特別法を優先する、という趣旨です。
6条:外国人は相互の保証があるときに限る
国賠法は、被害者が外国人である場合には、相互の保証があるときに限って適用されます(6条)。「相互主義」と呼ばれる考え方です。
| 条 | 試験で問われやすい言い回し |
|---|---|
| 3条 | 費用負担者も責任を負う/内部関係で求償できる |
| 4条 | 国賠法に定めのない部分は民法による |
| 5条 | 民法以外の別の法律に別段の定めがあればそれによる |
| 6条 | 外国人は相互の保証があるときに限る |
試験での問われ方と覚え方
行政書士試験の択一式では、次のような形で出題されます。
- 1条と2条のどちらの条文に当たる事例かを判断させる
- 「2条は過失がなければ責任を負わない」といった誤り文を見抜かせる(条文に過失の要件はありません)
- 求償権について、1条2項の「故意または重大な過失」を正確に問う
- 3条〜6条の条文の言い回し(費用負担者・民法・別段の定め・相互の保証)を問う
覚え方は次のとおりです。
- まず「人の行為か、物の欠陥か」で1条か2条かを決める
- 1条なら、公権力の行使・職務関連性・故意過失・違法性を順に確認する
- 2条なら、公の営造物か、設置または管理の瑕疵か、を確認する
- 求償権は「1条=公務員に故意・重過失」「2条=他に責任者」と対にして覚える
- 3条〜6条は、短いキーワード(費用負担者・民法・別段の定め・相互の保証)で覚える
判例の細かい論点(公権力の行使の範囲、瑕疵の判断基準など)は、まず条文の骨格が頭に入ってから、過去問や判例集で一つずつ確認すると効率的です。
講座で学ぶには
行政書士試験の行政法は、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、そして国家賠償法と、「行政救済」の一連の流れで出題されます。行政書士講座のページでは、授業の内容を確認できます。
行政事件訴訟法の入り口の論点は、取消訴訟の訴訟要件の記事で、審査請求と取消訴訟の違いはこちらの記事で整理しています。国賠法とあわせて読むと、行政救済の全体像がつかみやすくなります。
まとめ
- 1条は公務員の違法な職務行為、2条は公の営造物の設置・管理の瑕疵への責任
- 1条には故意・過失が条文にあり、2条の条文には要件として書かれていない
- 求償権は、1条が公務員の故意・重大な過失、2条が他に責任を負うべき者がいるとき
- 3条は費用負担者、4条は民法、5条は別の法律、6条は外国人の相互保証
国賠法は条文が短く、得点源にしやすい分野です。まず1条と2条の違いを表で言えるようにし、そのうえで3条〜6条の言い回しを固めてください。最新の試験情報は、必ず行政書士試験研究センターの公式サイトでご確認ください。

