代理とは、本人に代わって代理人が契約などをし、その効果を本人に直接帰属させる仕組みです。では、代理権がないのに「Aの代理人です」と名乗った人が契約をしたら、Aはその契約に縛られるのでしょうか。これが無権代理の問題です。行政書士試験の民法では、無権代理と表見代理の違いが繰り返し問われます。
結論から言うと、無権代理は「原則として本人に効力が生じない」ルール、表見代理は「その例外として、相手方を守るために本人に責任を負わせる」ルールです。まず無権代理の原則を押さえ、そのうえで表見代理が成立する3つの場面を覚えると整理しやすくなります。
この記事は、2026年10月19日に e-Gov 法令検索で確認した条文(同日時点の現行法令)に基づきます。試験は「試験を行う年度の4月1日現在施行の法令」が基準と案内されているため、受験する年度の試験案内(行政書士試験研究センター)で、対象となる法令を確認してください。
無権代理と表見代理の違いを一覧で比べる
まず全体像です。
| 項目 | 無権代理 | 表見代理 |
|---|---|---|
| 条文 | 113条〜118条 | 109条・110条・112条 |
| 前提 | 代理権がないのに、代理人として契約した | 無権代理であることは同じ。そのうえで、代理権があると信じてよい事情がある |
| 本人への効果 | 本人が追認しなければ効力が生じない(113条1項) | 本人が責任を負う(本人は契約に縛られる) |
| 相手方に求められる主観 | 手段ごとに違う(後述) | 善意・無過失(過失なく代理権があると信じたこと)が基本 |
| 趣旨 | 本人を守る | 取引の相手方を守る |
つまり、表見代理は、無権代理の中で特別に「相手方保護」を優先する場面です。表見代理が成立しなければ、無権代理の原則(本人は追認しない限り責任を負わない)に戻ります。
「無権代理が原則、表見代理が例外」と覚えると、問題を解く順番が決まります。まず代理権があるか → なければ表見代理が成立するか → 成立しなければ無権代理の処理、という流れです。
無権代理:本人は追認するかどうかを選べる(113条)
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対して効力を生じません(113条1項)。本人は、追認するか、追認を拒絶するかを選べます。
- 追認:契約を有効にすること。追認は、別段の意思表示がなければ、契約の時にさかのぼって効力を生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません(116条)
- 追認の拒絶:契約を確定的に本人に効力のないものにすること
追認や拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗できません。ただし、相手方がその事実を知ったときは別です(113条2項)。
無権代理の相手方が取れる3つの手段
代理人と名乗る人と契約した相手方は、本人が追認するかどうか分からない不安定な立場に置かれます。民法は、相手方に次の3つの手段を用意しています。
| 手段 | 条文 | 内容 | 相手方の主観 |
|---|---|---|---|
| 催告権 | 114条 | 本人に、相当の期間を定めて追認するかどうかの確答を催告する。期間内に確答がなければ、追認を拒絶したものとみなす | 善意・悪意を問わない |
| 取消権 | 115条 | 本人が追認をしない間は、契約を取り消せる | 契約の時に代理権のないことを知っていたら行使できない(悪意だと不可) |
| 無権代理人への責任追及 | 117条 | 無権代理人に、相手方の選択に従い、履行または損害賠償を求める | 悪意・有過失だと原則として不可(後述) |
ここで大切な違いは、催告権は相手方が悪意でも行使できるのに対し、取消権は悪意の相手方には認められない点です。
催告権は、本人に追認するかどうかをはっきりさせる手段です。本人が期間内に確答しなければ、「追認を拒絶した」とみなされます。追認したことになるのではない点に注意してください。
無権代理人の責任(117条)
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行または損害賠償の責任を負います(117条1項)。
ただし、次の場合は、無権代理人の責任を問えません(117条2項)。
| 場合 | 条文 | 補足 |
|---|---|---|
| 相手方が、代理権がないことを知っていた | 117条2項1号 | 悪意の相手方は保護されない |
| 相手方が、代理権がないことを過失によって知らなかった | 117条2項2号 | ただし、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、責任を問える |
| 無権代理人が行為能力の制限を受けていた | 117条2項3号 | 制限行為能力者を保護するため |
2号のただし書が重要です。無権代理人自身が「代理権がない」と知っていた(悪意)なら、相手方に過失があっても責任を負うというルールです。悪意の無権代理人まで保護する必要はないからです。
表見代理:代理権があるように見える3つの場面
表見代理は、本人にも原因(落ち度)があり、相手方が代理権を信じてもやむを得ないときに、本人に責任を負わせる制度です。民法は3つの類型を定めています。
| 類型 | 条文 | 場面 | 相手方に求められるもの |
|---|---|---|---|
| 代理権授与の表示による表見代理 | 109条 | 本人が、代理権を与えていないのに「与えた」と第三者に表示した | 代理権がないことを知らず、過失もないこと(悪意・有過失だと不可。109条1項ただし書) |
| 権限外の行為の表見代理 | 110条 | 代理人が、与えられた代理権の範囲を超えた行為をした | 代理人の権限があると信ずべき正当な理由があること |
| 代理権消滅後の表見代理 | 112条 | 代理権がなくなった後に、元の代理人が契約をした | 代理権が消滅したことを知らず、過失もないこと(過失があると不可。112条1項ただし書) |
条文の構造に注意してください。110条は、「前条第一項本文の規定は…準用する」と、109条1項本文を借りる形になっています。
また、複数の類型が重なる場面にも条文があります。
- 109条2項:代理権授与の表示をした者について、その代理権の範囲を超える行為があったとき、第三者が代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、責任を負う
- 112条2項:代理権が消滅した後に、その元の代理権の範囲を超える行為があったとき、第三者が代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、責任を負う
たとえば、Aが委任状を与えた代理人Bの代理権が終了したあとに、Bが元の代理権の範囲を超える契約をしたとします。この場合は112条2項の問題で、第三者に「代理権があると信ずべき正当な理由」があるときに限り、Aが責任を負います。
試験での問われ方と、間違えやすいポイント
無権代理と表見代理の問題は、事例を読んで次の順番で考えると解きやすくなります。
- 代理権はあるか。 あれば、通常の代理(99条)
- なければ、表見代理は成立するか。 109条・110条・112条のどれに当たるか、相手方の主観の要件を満たすかを確認する
- 成立しなければ、無権代理。 本人は追認するか拒絶するか。相手方は催告・取消し・無権代理人への責任追及のどれが使えるか
特に間違えやすいのは次の点です。
- 催告権(114条)は相手方の善意・悪意を問わないが、取消権(115条)は悪意の相手方には認められない
- 本人が催告に確答しなかったときは、追認拒絶とみなされる(追認とみなされるのではない)
- 無権代理人の責任(117条)は、相手方に過失があると原則として問えないが、無権代理人が悪意なら問える
- 表見代理が成立する場面でも、無権代理人への責任追及を選べるかは別の問題。事例ごとに、条文の要件を確認する
学習の進め方と講座のご案内
代理は、民法総則の中でも条文の数が多く、「誰が」「何を信じたか」で結論が変わる分野です。意思表示の無効・取消しの学習とつなげて、相手方の保護要件を比べると理解が深まります。関連する分野として、制限行為能力者の違いとは? 未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人を表で整理もあわせて確認してください。
条文を読むときは、無権代理と表見代理のそれぞれについて、「誰を守る規定か」「相手方に何が求められるか」を自分で表に書き出してみる方法が効果的です。行政書士講座のページでは、講座の内容を確認できます。ご自身の学習の進め方に合うかを、講座ページで確かめてみてください。
よくある質問
Q. 無権代理と表見代理は、どちらが先に考えますか? A. 代理権がないと分かったら、まず表見代理が成立するかを確認します。成立しなければ、無権代理の原則(本人が追認しなければ効力なし)で処理します。
Q. 本人が催告に答えなかったら、どうなりますか? A. 追認を拒絶したものとみなされます(114条後段)。追認したことにはなりません。
Q. 悪意の相手方は、何もできないのですか? A. 催告権(114条)は、善意・悪意を問わず行使できます。取消権(115条)と無権代理人への責任追及(117条)は、悪意の相手方には認められません。
まとめ
- 無権代理は、本人が追認しない限り効力が生じない(113条1項)。追認は契約の時にさかのぼって効力を生じる(116条)
- 相手方の手段は、催告権(114条)・取消権(115条)・無権代理人の責任追及(117条)。催告権だけは悪意でも行使できる
- 無権代理人の責任は、相手方が悪意または有過失だと原則問えないが、無権代理人が悪意ならこの限りでない(117条2項2号ただし書)
- 表見代理は、109条(授与表示)・110条(権限外)・112条(消滅後)の3類型で、相手方を守るために本人に責任を負わせる
- 解く順番は「代理権の有無 → 表見代理 → 無権代理の処理」
条文の言い回しをそのまま覚えるのが近道です。受験する年度の法令を、必ず e-Gov 法令検索などで確認しながら学習を進めてください。

