運行管理者試験(貨物)の法令分野では、「この義務は事業者のものか、運行管理者の業務か」を問う選択肢がよく出ます。条文はどちらも「〜しなければならない」と書かれているので、読み慣れないうちは区別がつきにくいところです。この記事では、貨物自動車運送事業法と貨物自動車運送事業輸送安全規則(以下「輸送安全規則」)の条文をもとに、事業者の義務と運行管理者の業務の線引きを表で整理します。試験全体の形式は運行管理者(貨物)試験とは、同じ法令分野の点呼は点呼の基本の記事もあわせて確認してください。
結論:義務を負うのは事業者、実行するのは運行管理者
まず登場人物は3者です。条文に出てくる区別を表にします(2026年10月17日時点のe-Govの条文にもとづきます)。
| 立場 | 主なこと | 根拠 |
|---|---|---|
| 事業者(運送会社) | 運行管理者を選任し、遅滞なく国土交通大臣へ届け出る。必要な権限を与える。運行管理者の助言を尊重する | 事業法16条1項・3項、20条2項・3項 |
| 運行管理者 | 誠実に業務を行う。事業者へ助言できる。従業員へ指導する | 事業法20条1項、輸送安全規則20条3項 |
| 運転者などの従業員 | 運行管理者がその業務として行う指導に従う | 事業法20条3項 |
運行管理者の業務の範囲は、事業法16条2項が「国土交通省令で定める」としています。この省令にあたるのが輸送安全規則で、業務の一覧は20条にあります。
輸送安全規則の3条から10条などは、主語が「貨物自動車運送事業者は」です。義務を負うのは事業者で、そのうち20条に挙がる事項を運行管理者が実際に行う、という構造です。
20条は「最低限の範囲」
国土交通省の解釈通達は、20条の運行管理者の業務を、運行管理者に行わせるべき「最低限の業務の範囲」を定めたものだと説明しています。したがって、事業者が20条にない職務を運行管理者に任せることは差し支えありません。ただし、そうした場合は運行管理規程に記載するよう指導する、とされています。
試験では、次のような言い換えに注意します。
- 「20条に書かれた業務以外は、運行管理者に任せてはならない」→ 誤り。最低限の範囲なので、それ以上を定めてもよい
- 「運行管理者の業務は事業者が自由に決められる」→ 誤り。20条の業務は最低限行わせなければならない
運行管理者の業務を3つのまとまりで見る
20条1項は号数が多いため、内容ごとに3つに分けると覚えやすくなります。
| まとまり | 主な号 | 内容 |
|---|---|---|
| 乗せる人と状態 | 1号〜5号 | 選任された運転者以外を乗せない/休憩・睡眠の施設の管理/乗務割の作成/酒気帯びや体調不良の人を乗せない/交替運転者の配置 |
| 点呼・記録・書類 | 8号〜13号 | 点呼と記録・保存、アルコール検知器の常時有効な保持/業務の記録/運行記録計の管理/事故の記録/運行指示書/運転者等台帳 |
| 指導監督と非常時 | 6号・7号・7号の2、14号〜17号 | 積載方法などの指導監督/特別な指導と適性診断/異常気象時の措置/補助者の指導監督/事故防止対策にもとづく指導監督 |
細かい号数をすべて暗記するより、「現場で確かめる」「記録を作って残す」「指導する」の3つの動きに分けて考えると、選択肢の主語が事業者なのか運行管理者なのかを判断しやすくなります。なお、20条2項は特別積合せ貨物運送を行う事業の運行管理者に運行の業務に関する基準の作成と指導監督を、3項は事業者への助言を、4項は統括運行管理者による業務の統括を定めています。
対になる義務を表で比べる
取り違えやすいのは、事業者の義務と運行管理者の業務が「対」になっている項目です。事業者が土台を定め、運行管理者がそれを現場で動かす関係になっています。
| 事業者の義務 | 運行管理者の業務 |
|---|---|
| 運転者の勤務時間と乗務時間を、告示の基準に従って定める(3条4項) | その範囲内で乗務割を作成し、乗務させる(20条1項3号) |
| 休憩・睡眠の施設を整備し、管理・保守する(3条3項) | 乗務員等が利用できる施設を適切に管理する(20条1項2号) |
| アルコール検知器を営業所ごとに備え、常時有効に保持する(7条4項) | 運転者に対して使うアルコール検知器を常時有効に保持する(20条1項8号) |
| 必要な員数の運転者を常時選任しておく(3条1項) | 選任された運転者以外を運行の業務に従事させない(20条1項1号) |
| 酒気を帯びた乗務員等を従事させない(3条5項) | 同じ内容を現場で守る(20条1項4号) |
| 運行管理者の業務を補助する補助者を選任できる(18条3項) | 選任された補助者を指導監督する(20条1項16号) |
動詞で見分けるのが効果的です。「定める」「備える」「整備する」「選任する」は事業者、「作成する」「管理する」「従事させない」「指導監督する」は運行管理者の側の動作です。
運行管理者の業務にならない事業者の義務
反対に、運行管理者の業務の一覧に入らず、事業者だけが負う義務もあります。試験で「運行管理者が行う」と書き換えられやすいものです。
| 事業者だけの義務 | 条文 | 注意点 |
|---|---|---|
| 運行管理者の選任と国土交通大臣への届出 | 事業法16条1項・3項 | 解任したときも届出が必要 |
| 運行管理者の員数の確保と統括運行管理者の選任 | 輸送安全規則18条1項・2項 | 営業所ごとに、運行を管理する事業用自動車の数を30で除した数(端数切り捨て)に1を加えた数以上。統括運行管理者は運行管理者が複数のとき |
| 運行管理規程の作成 | 輸送安全規則21条 | 運行管理者の権限は、少なくとも20条の業務を処理するに足りるものにする |
| 運行管理者への指導監督 | 輸送安全規則22条 | 20条の業務の適確な処理と運行管理規程の遵守について行う |
| 輸送の安全に関する基本的な方針の策定など | 輸送安全規則10条5項 | 20条1項14号は「10条(第5項を除く。)」と書かれ、5項は運行管理者の業務から除かれている |
「運行管理規程を作成するのは運行管理者」は誤りです。作るのは事業者で、運行管理者の職務や権限を書き込みます。運行管理者は、その規程にもとづいて業務を行う立場です。
助言と指導:事業者と従業員の側の義務
事業法20条は、運行管理者を中心にした「やり取りのルール」も定めています。
- 運行管理者は、誠実に業務を行わなければならない(1項)
- 事業者は、運行管理者に必要な権限を与えなければならない(2項)
- 事業者は運行管理者がその業務として行う助言を尊重しなければならず、運転者その他の従業員は運行管理者の指導に従わなければならない(3項)
助言ができる範囲は、輸送安全規則20条3項で「事業用自動車の運行の安全の確保に関し必要な事項」とされています。緊急のときだけ、特定の運転者だけ、といった限定はありません。「助言を尊重する」のは事業者、「指導に従う」のは運転者などの従業員、と主語を分けて覚えましょう。
試験での出題パターンと覚え方
出題は、次の観点で正誤が作られることが多いです。
- 主語のすり替え:事業者の義務を「運行管理者が行う」に、またはその逆に書き換える
- 範囲のすり替え:「最低限」を「これだけ」に、「従業員」を「事故を起こした運転者だけ」のように狭める
- 期間・数値の混入:選任の員数、記録の保存期間など、別の論点の数字を入れる
確認の手順は次の3ステップがおすすめです。
- 選択肢の主語(事業者/運行管理者/運転者)に印をつける
- その動作が20条1項のどの号にあたるかを探す。あれば運行管理者の業務、なければ事業者の義務の可能性が高い
- 「選任」「届出」「規程」「方針」「権限を与える」という言葉が出てきたら、事業者の義務を疑う
授業では、同じ区別を事業者・運行管理者・運転者の3者の関係から順に説明しています。条文の見方からつまずきやすい方は、運行管理者(貨物)講座で学習の流れを確認してみてください。受験資格や試験の形式は受験資格の記事にまとめています。
まとめ
- 輸送安全規則の義務を負うのは事業者。20条に書かれた部分を運行管理者が実行する
- 20条は最低限の範囲。それ以上を任せるなら運行管理規程に書く
- 選任・届出、運行管理規程の作成、基本的な方針の策定、権限の付与は事業者の義務
- 運行管理者は事業者に助言でき、事業者は尊重する。従業員は運行管理者の指導に従う
「定める・備える・選ぶ・規程を作る」は事業者、「作成する・管理する・乗せない・指導監督する」は運行管理者。主語に印をつけてから20条の号と照らし合わせると、取り違えを防げます。法令は改正されることがあるため、受験する年度の最新の条文は国土交通省やe-Govで確認してください。

