行政庁から営業許可を取り消されたり、申請を拒否されたりして納得できないとき、国民にはどんな手段があるでしょうか。代表的なものが、行政庁に不服を申し立てる「審査請求」と、裁判所に処分の取消しを求める「取消訴訟」です。どちらも「処分に不服がある」場面の制度なので、行政書士試験では違いを混同させる選択肢がよく作られます。この記事では、行政不服審査法と行政事件訴訟法の条文(e-Gov法令検索で確認)に沿って、2つの違いを比較表で整理します。
結論から言うと、審査請求は行政の内部で見直しを求める簡易迅速な手続、取消訴訟は裁判所が判断する司法の手続です。そして、原則としてどちらを先に選んでもよい(自由選択)という関係にあります。
この記事は、2026年10月12日にe-Gov法令検索で確認した条文(同日時点の現行法令)に基づきます。試験は「試験を行う年度の4月1日現在施行の法令」が基準とされるため、受験する年度の試験案内(行政書士試験研究センター)と最新の条文を必ず確認してください。
2つの制度の位置づけ
行政不服審査法は、行政庁の違法または不当な処分について、国民が簡易迅速かつ公正な手続で行政庁に不服を申し立てられるようにする法律です(第1条第1項)。処分に関する不服申立ては、他の法律に特別の定めがある場合を除き、この法律によります(同条第2項)。不服申立ての種類のうち、基本となるのが審査請求です(第2条)。
一方、行政事件訴訟法は、行政事件訴訟の種類と手続を定める法律です。行政事件訴訟には、抗告訴訟・当事者訴訟・民衆訴訟・機関訴訟があります(第2条)。このうち、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟が抗告訴訟で(第3条第1項)、処分の取消しを求めるものが処分の取消しの訴えです(同条第2項)。審査請求に対する裁決の取消しを求める裁決の取消しの訴えもあります(同条第3項)。この2つをまとめて「取消訴訟」と呼びます(第9条第1項)。
つまり、審査請求は行政の中での救済、取消訴訟は裁判所での救済です。
比較表:審査請求と取消訴訟
| 項目 | 審査請求(行政不服審査法) | 取消訴訟(行政事件訴訟法) |
|---|---|---|
| 申立て先 | 審査庁(原則として処分庁等の最上級行政庁。第4条) | 裁判所 |
| 対象 | 行政庁の処分(第2条)。不作為についての審査請求もある(第3条) | 処分の取消しの訴え・裁決の取消しの訴え(第3条第2項・第3項) |
| 争える内容 | 違法または不当(第1条第1項) | 違法。裁量処分は裁量権の範囲を超えるか濫用があった場合に限り取消し(第30条) |
| 期間 | 処分を知った日の翌日から3か月、処分の日の翌日から1年(第18条) | 処分を知った日から6か月、処分の日から1年(第14条) |
| 期間の例外 | 正当な理由があるとき | 正当な理由があるとき |
| 提起の方式 | 原則として審査請求書の提出(第19条第1項) | 訴状の提出(民事訴訟の例による。第7条) |
| 請求の資格 | 処分に不服がある者(第2条) | 法律上の利益を有する者(原告適格。第9条第1項) |
| 相手方 | 審査庁に審査請求書を出す(相手方という概念はない) | 国または公共団体(処分をした行政庁の所属)を被告にする(第11条第1項) |
| 審理 | 審理員による審理が原則(第9条)。口頭意見陳述の申立て(第31条) | 裁判所の口頭弁論 |
| 結論 | 却下・棄却・認容(取消しまたは変更。第45条、第46条) | 却下・棄却・認容(取消判決等) |
| 処分の効力 | 審査請求をしても停止しない(第25条第1項) | 訴えを起こしても停止しない(第25条第1項) |
| 執行停止 | 審査庁がとる(第25条) | 裁判所が申立てにより決定(第25条) |
表の「期間」は試験で頻出です。審査請求は「3か月(知った日の翌日から)」、取消訴訟は「6か月(知った日から)」。数字だけでなく、起算点(翌日からか、当日からか)も条文で確認しておきましょう。
「不当」まで争えるかどうか
審査請求と取消訴訟の大きな違いの一つが、争える範囲です。
審査請求は、違法な処分だけでなく不当な処分も対象にします(第1条第1項)。違法とは法令に違反することで、不当とは、法令違反とまではいえないものの、裁量権の行使として適切さを欠くことを指します。行政の内部で見直す手続だから、適切かどうかまで判断できるのです。
これに対して、取消訴訟で裁判所が判断するのは、処分が違法かどうかです。裁量処分については、裁量権の範囲をこえ、またはその濫用があった場合に限り、裁判所は処分を取り消すことができます(行政事件訴訟法第30条)。単に「不当」であるだけでは、取り消されません。
審査請求に特有の仕組み
審査請求には、取消訴訟にない仕組みがあります。
- 審理員:審査庁が指名する職員が、審理手続を行います(第9条第1項)。処分に関与した者や審査請求人の親族などは、審理員になれません(同条第2項)
- 口頭意見陳述:審査請求人または参加人の申立てがあれば、審理員は口頭で意見を述べる機会を与えなければなりません(第31条第1項)。申立人は、審理員の許可を得て処分庁等に質問もできます(同条第5項)
- 提出書類等の閲覧:審査請求人や参加人は、審理手続が終結するまで、審理員に提出書類等の閲覧を求められます(第38条第1項)
- 処分の変更:認容の裁決では、処分の全部もしくは一部の取消しだけでなく、処分の変更もできます。ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁でも処分庁でもない場合は、処分を変更できません(第46条第1項)
- 不作為についての審査請求:申請から相当の期間が経っても何の処分もされない場合にも、審査請求ができます(第3条)
取消訴訟に特有の仕組み
取消訴訟のほうにも、見落としやすい条文があります。
- 原告適格:取消訴訟を起こせるのは、処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限られます(第9条第1項)。処分の相手方以外の者については、根拠法令の趣旨・目的や、考慮されるべき利益の内容・性質を考慮して判断します(同条第2項)
- 取消しの理由の制限:自己の法律上の利益に関係のない違法を理由に取消しを求めることはできません(第10条第1項)
- 被告適格:処分をした行政庁が国または公共団体に所属するときは、その国または公共団体が被告になります(第11条第1項)
- 事情判決:処分が違法でも、取り消すと公の利益に著しい障害を生じ、公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は請求を棄却できます。この場合、判決の主文で処分が違法であることを宣言します(第31条第1項)
審査請求にも似た制度があり、これを「事情裁決」と呼びます(行政不服審査法第45条第3項)。審査庁は、違法または不当な処分でも、取り消すと公共の福祉に適合しないと認めるとき、審査請求を棄却でき、主文で処分が違法または不当であることを宣言します。
2つの関係:自由選択と審査請求前置
処分に審査請求も取消訴訟もできるとき、どちらを先にするのでしょうか。行政事件訴訟法第8条第1項は、処分の取消しの訴えは、審査請求をすることができる場合でも直ちに提起することを妨げないと定めています。これを自由選択主義と呼びます。
ただし、法律に「審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起できない」という定めがあるときは、その法律に従います(同項ただし書)。これを審査請求前置といいます。
審査請求前置の場合でも、次のいずれかに当たるときは、裁決を経ないで取消訴訟を起こせます(第8条第2項)。
- 審査請求があった日から3か月を経過しても裁決がないとき
- 処分、処分の執行または手続の続行により生ずる著しい損害を避けるため、緊急の必要があるとき
- その他、裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき
また、自由選択の場合に、すでに審査請求をしているときは、裁判所は審査請求に対する裁決があるまで訴訟手続を中止できます(第8条第3項)。
審査請求を先にしたときの出訴期間
審査請求をして裁決を受けた場合、取消訴訟の期間はどうなるのでしょうか。処分または裁決につき審査請求をすることができる場合に審査請求があったときは、その審査請求をした者は、裁決があったことを知った日から6か月、または裁決の日から1年を経過すると、取消訴訟を提起できません(行政事件訴訟法第14条第3項)。処分を知った日から数えるのではなく、裁決を基準に数え直すという点が重要です。
原処分主義
処分の取消しの訴えと、その処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えの両方を起こせる場合、裁決の取消しの訴えでは、処分の違法を理由として取消しを求められません(第10条第2項)。処分の違法は処分の取消しの訴えで争い、裁決の取消しの訴えでは、裁決自体に固有の違法(手続の違法など)を争うことになります。これを原処分主義といいます。
教示の制度
行政庁は、審査請求などの不服申立てができる処分をするとき、処分の相手方に対し、不服申立てができる旨、不服申立てをすべき行政庁、不服申立てができる期間を書面で教示しなければなりません(行政不服審査法第82条第1項)。ただし、口頭で処分する場合は書面でなくてよいとされています(同項ただし書)。利害関係人から教示を求められたときも、行政庁は教示しなければなりません(同条第2項)。
また、取消訴訟についても、行政庁が取消訴訟の提起に関する事項を教示する制度があります(行政事件訴訟法第46条)。
試験での問われ方と覚え方
整理のしかたは次のとおりです。
- 審査請求は行政庁へ、取消訴訟は裁判所へ
- 審査請求は違法・不当、取消訴訟は違法(裁量は逸脱・濫用の場合に限る)
- 期間は、審査請求が3か月(知った日の翌日から)、取消訴訟が6か月(知った日から)。どちらも客観的な期間は1年
- 原則は自由選択。法律に定めがあるときだけ審査請求前置
- どちらも、提起しても処分の効力は止まらない(執行不停止の原則)
- 審査請求の認容では処分の変更もできる
特に4の自由選択は、「審査請求をしなければ取消訴訟を起こせない」という誤った選択肢が出やすい箇所です。原則は直ちに訴えてよい、と覚えましょう。
審査請求をした人が裁決に不満なときは、裁決の取消しの訴えや、処分の取消しの訴えが選べます。その場合の出訴期間は、裁決を知った日から6か月です(行政事件訴訟法第14条第3項)。
行政手続法の側から処分の流れを復習したい方は、行政手続法:申請に対する処分と不利益処分の違いと聴聞と弁明の機会の付与の違いもあわせて読むと、「処分の前の手続」と「処分の後の救済」が1本の流れとしてつながります。
学習の進め方と講座ページ
審査請求と取消訴訟は、数字(3か月・6か月・1年)と、自由選択・審査請求前置・原処分主義といった用語が多く、混ざりやすい分野です。自分で2列の比較表を作り、条文番号を添えて覚えると、選択肢の入れ替えに気づきやすくなります。行政書士の講座の内容は、行政書士講座のページで確認できます(授業は準備中のため、公開状況はページでご確認ください)。
まとめ
- 審査請求は行政庁に申し立てる手続で、違法のほか不当も争える(行政不服審査法第1条)
- 取消訴訟は裁判所に違法を争う訴えで、原告適格(法律上の利益)が必要(行政事件訴訟法第9条)
- 期間は、審査請求が処分を知った日の翌日から3か月(第18条)、取消訴訟が処分を知った日から6か月(第14条)
- 原則は自由選択で、法律に定めがあるときだけ審査請求前置(第8条)
- 審査請求を経た場合の出訴期間は、裁決を知った日から6か月(第14条第3項)。裁決の取消しの訴えでは処分の違法を主張できない(第10条第2項)
「審査請求は行政へ・違法と不当・3か月」「取消訴訟は裁判所へ・違法・6か月」「原則は自由選択」の3点を軸に、条文番号つきで整理しておきましょう。

