行政手続法を学び始めると、「申請に対する処分」と「不利益処分」の区別で混乱しがちです。どちらも行政庁が行う「処分」なのに、審査の基準づくりも、理由の示し方も、本人の意見を聴く手続も違います。この記事では、行政手続法の条文(e-Gov法令検索で確認)に沿って、2つの違いを整理します。
結論から言うと、見分け方は「誰が、何を求めているか」です。国民の側から利益を求めて始まるのが申請に対する処分、行政の側から義務や制限を課すのが不利益処分です。
この記事は2026年10月10日に e-Gov法令検索で確認した条文に基づきます。試験は「試験を行う年度の4月1日現在施行の法令」が基準とされるため、受験年度の試験案内(行政書士試験研究センター)と最新の条文を必ず確認してください。
まず定義を押さえる(第2条)
行政手続法第2条は、用語を次のように定めています。
| 用語 | 条文の定義(要点) |
|---|---|
| 申請 | 法令に基づき、行政庁の許可・認可・免許など、自己に対し何らかの利益を付与する処分(許認可等)を求める行為で、行政庁が諾否の応答をすべきとされているもの(第2条第3号) |
| 不利益処分 | 行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接にこれに義務を課し、又はその権利を制限する処分(第2条第4号) |
ここで大切なのは、不利益処分には除外があることです。第2条第4号のただし書は、次のものを不利益処分から除いています。
- 事実上の行為などの処分(イ)
- 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他、申請をした者を名あて人としてされる処分(ロ)
- 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分(ハ)
- 許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出を理由として、効力を失わせる処分(ニ)
つまり、「営業許可の申請を断られた」という場面は、本人にとって不利な結果ではあっても、行政手続法上は不利益処分ではなく、申請に対する処分として扱われます。試験で最も狙われやすいのがこの点です。
比較表:2つの手続の違い
次の表は、主な違いを条文ごとに並べたものです。
| 項目 | 申請に対する処分 | 不利益処分 |
|---|---|---|
| 始まり方 | 国民が申請する | 行政庁が自らする |
| 基準の名称 | 審査基準(第5条) | 処分基準(第12条) |
| 基準を定める義務 | 定めるものとする。できる限り具体的に。原則として公にしておかなければならない(第5条第1〜3項) | 定め、公にしておくよう努めなければならない。定めるときはできる限り具体的に(第12条) |
| 処理期間 | 標準処理期間を定めるよう努め、定めたら公にしておかなければならない(第6条) | 規定なし |
| 審査・応答 | 申請が到達したら遅滞なく審査を開始。形式上の要件に適合しない申請は、補正を求めるか拒否(第7条) | 規定なし |
| 理由の提示 | 申請を拒否する場合に、同時に示す(第8条)。書面でするときは書面で | 不利益処分をする場合に、名あて人に同時に示す(第14条)。書面でするときは書面で |
| 意見を聴く手続 | 原則なし(利害関係者について公聴会の開催などの努力義務はある・第10条) | 聴聞または弁明の機会の付与(第13条) |
「基準」の言葉も試験で聞かれます。申請に対する処分は審査基準、不利益処分は処分基準と、名前がそろって対になっています。さらに、審査基準は「定めるものとする」(義務)、処分基準は「努めなければならない」(努力義務)と、強さが違う点は覚えておきたい違いです。
理由の提示:第8条と第14条の違い
理由の提示は、どちらの処分にもありますが、対象の範囲が違います。
申請に対する処分(第8条) は、申請を拒否する場合だけが対象です。許可をするときには、この条文に基づく理由の提示義務はありません。ただし書にも注目してください。許認可等の要件や公にされた審査基準が数量的指標などで明確に定められていて、申請がそれに適合しないことが申請書などから明らかな場合は、申請者の求めがあったときに示せば足りるとされています。
不利益処分(第14条) は、不利益処分をする場合に、同時に理由を示すのが原則です。ただし、理由を示さないで処分をすべき差し迫った必要がある場合は例外で、その場合は処分後の相当の期間内に示さなければなりません(名あて人の所在が分からなくなったなど、示すことが困難な事情があるときを除く)。
| 第8条(申請の拒否) | 第14条(不利益処分) | |
|---|---|---|
| いつ | 拒否と同時 | 処分と同時(差し迫った必要があるときは処分後の相当の期間内) |
| 例外 | 客観的指標で明らかなときは、求めがあったとき | 差し迫った必要があるとき |
| 書面でするとき | 理由も書面で | 理由も書面で |
不利益処分の意見陳述手続:聴聞と弁明の機会(第13条)
不利益処分をしようとするときは、名あて人となるべき者に意見陳述のための手続をとる必要があります。どちらをとるかは、第13条第1項で決まります。
| 手続 | 使われる場面 |
|---|---|
| 聴聞 | 許認可等を取り消す不利益処分/名あて人の資格や地位を直接にはく奪する不利益処分/法人の役員の解任を命ずる処分など/上記以外で行政庁が相当と認めるとき |
| 弁明の機会の付与 | 上の聴聞の場面のいずれにも当たらないとき |
イメージとしては、重い不利益(許認可の取消しなど)には聴聞、比較的軽いもの(たとえば営業停止の命令など)には弁明の機会の付与、という割り振りです。ただし、条文上は「取消し・資格のはく奪など」と列挙されているので、イメージだけでなく列挙の中身で判断します。
聴聞と弁明は、進め方もはっきり違います。
| 聴聞 | 弁明の機会の付与 | |
|---|---|---|
| 通知(書面) | 不利益処分の内容と根拠条項、原因となる事実、聴聞の期日と場所、事務を所掌する組織の名称と所在地(第15条第1項) | 不利益処分の内容と根拠条項、原因となる事実、弁明書の提出先と提出期限(第30条) |
| 方式 | 期日に出頭して意見を述べ、証拠書類等を提出(陳述書の提出に代えることも可・第20条、第21条) | 弁明書の提出が原則(行政庁が口頭を認めたときを除く)。証拠書類等も提出できる(第29条) |
| 資料の閲覧 | 当事者は、通知があったときから聴聞が終結するまで、原因となる事実を証する資料の閲覧を求められる(第18条) | 条文上の定めなし |
| 審理の公開 | 行政庁が公開を相当と認めるときを除き公開しない(第20条第6項) | — |
| 代理人 | 選任できる(第16条) | 準用により選任できる(第31条) |
弁明の機会の付与は、書面中心の簡易な手続です。資料の閲覧権の規定が聴聞にだけある、という点は、選択肢で入れ替えて出題されやすいところです。
第13条第2項:意見陳述の手続が不要になる場合
不利益処分でも、次のような場合は、聴聞も弁明の機会の付与も必要ありません(第13条第2項)。
- 公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、手続をとることができないとき
- 資格がなかった、または失われたことが判明したとき必ずすることとされている処分で、客観的な資料により直接証明されたとき
- 技術的な基準が不充足であることを理由に基準に従うよう命じる処分で、計測などで確認されたとき
- 金銭の額を確定し、納付を命じる処分など、金銭に関する不利益処分をしようとするとき
このほか、性質上義務の内容が軽微であるときなども定められています。条文は第5号まであるので、受験前に原文で全体を確認しておきましょう。
試験での問われ方と覚え方
行政手続法は、条文の文言がそのまま選択肢になる分野です。次の順で整理すると、混ざりにくくなります。
- 処分の向きを決める(申請から始まるか、行政が始めるか)
- 申請の拒否は、不利益処分ではないと覚える(第2条第4号ロ)
- 基準は審査基準(義務)/処分基準(努力義務)
- 理由の提示は第8条(拒否のとき)/第14条(不利益処分のとき)
- 意見陳述は、取消し・はく奪などは聴聞、それ以外は弁明
行政法は、全体の配点のなかで大きな割合を占める科目です。配点の組み立ては行政法と民法で配点の6割 — 科目別の配点と得点の組み立て方で整理しています。
「拒否されたから不利益処分だ」と考えるのは典型的な誤りです。申請に対する拒否は、聴聞・弁明の機会ではなく、理由の提示(第8条)で足りる手続になっています。
学習の進め方と講座ページ
条文を読むときは、章ごとに「申請に対する処分(第2章)」「不利益処分(第3章)」と見出しをそろえて、本記事のような比較表を自分の言葉で作ると定着しやすくなります。行政書士の講座の内容は、行政書士講座のページで確認できます(授業は準備中のため、公開状況はページでご確認ください)。
まとめ
- 申請に対する処分は、利益を求める申請への応答。不利益処分は、行政が義務を課す・権利を制限する処分
- 申請の拒否は不利益処分ではなく、申請に対する処分として扱う。拒否の際は、理由の提示(第8条)が必要
- 基準は審査基準(第5条)と処分基準(第12条)で、義務の強さが違う
- 不利益処分では、聴聞または弁明の機会の付与をとる(第13条)。取消し・はく奪などは聴聞、それ以外は弁明
まず「処分の向き」で区別し、次に「拒否は不利益処分でない」「審査基準と処分基準」「第8条と第14条」「聴聞と弁明」の4つの対を、条文番号とセットで覚えましょう。

