管理費や修繕積立金の滞納は、管理組合にとって日常的な悩みです。管理業務主任者試験でも、「だれに請求できるか」は、場面を変えて何度も問われる定番の論点です。この記事では、賃貸・売買・競売・共有・相続・破産・行方不明という場面ごとに、請求の相手を条文で整理します。条文は2026年10月16日に確認した現行のものです(区分所有法は令和7年改正後の2026年4月1日施行の規定)。最新の内容は、e-Gov法令検索や国土交通省の資料でご確認ください。
結論:請求の相手は「いま住んでいる人」とは限らない
先に、場面ごとの答えを表にまとめます。
| 場面 | 請求できる相手 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 部屋を人に貸している | 区分所有者 | 区分所有法19条、標準管理規約25条 |
| 滞納したまま売却された | 買主(特定承継人)と、売った元の区分所有者 | 区分所有法8条、標準管理規約26条 |
| 競売で買い受けられた | 買受人(特定承継人) | 区分所有法8条 |
| 共有している | 共有者の一人に全額 | 民法430条・436条 |
| 区分所有者が亡くなった | 各相続人に相続分に応じて | 民法899条 |
| 破産した | 開始前の滞納は破産手続で、開始後の管理費は本人に | 破産法100条1項 |
| 行方不明 | 公示送達を使って訴える | 民事訴訟法110条1項1号 |
管理費等の債務者は、そこに住んでいる人ではなく「区分所有者」です。住人と債務者がずれる場面(賃貸・売却・相続)を押さえると、ほとんどの問題が解けます。
賃貸:払う義務を負うのは区分所有者
区分所有者のAさんが、301号室をBさんに貸しているとします。AさんとBさんの間で「管理費は家賃と一緒にBさんが払う」と決めていても、管理組合との関係で払う義務を負うのはAさんです。
標準管理規約25条1項は、「区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、管理費と修繕積立金(管理費等)を管理組合に納入しなければならない」と定めています。AさんとBさんの約束は、二人の間だけのものです。管理組合が賃借人に直接請求できるとは限らない、と覚えておきましょう。
売買・競売:特定承継人にも請求できる(区分所有法8条)
次に、Aさんが滞納したまま部屋をCさんに売った場合です。区分所有法7条1項は、区分所有者が規約や集会の決議に基づいて他の区分所有者に対して有する債権(管理費等の債権はこれにあたります)について、先取特権を定めています。そして8条は、この債権を「債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めています。標準管理規約26条にも同じ趣旨の規定があります。
特定承継人とは、売買などで区分所有権を引き継いだ人です。標準管理規約のコメントでは、包括承継は相続、特定承継は売買や交換などの場合と説明されています。
押さえておきたいのは次の3点です。
- 8条は、買主が滞納を知っていたかどうかを要件にしていません。知らずに買った人にも請求できます
- 条文は「特定承継人に対しても」行えると書いているので、元の区分所有者のAさんへの請求も残ります。売って手放しても、Aさんの滞納が消えるわけではありません
- 競売で買い受けた人も特定承継人です。国土交通省の標準管理規約の資料でも、競売で区分所有権が売却された後は、区分所有法8条により買受人(特定承継人)が滞納管理費等を弁済する義務を負う、と説明されています
「滞納を知らなかった買主は払わなくてよい」「売った元の所有者はもう払わなくてよい」は、どちらも誤りです。試験では、このひっかけがよく使われます。
なお、先取特権は、公租公課や抵当権などの登記された担保権には劣後します。標準管理規約の資料でも、先取特権の実行だけでは滞納額を全額回収できない場合があると説明されています。
共有:一人に全額を請求できる
301号室をAさんと妻のEさんが2分の1ずつ共有している場合を考えます。区分所有法19条は、共用部分の負担を持分に応じて負うと定めていますが、これは共有者どうしの内部の割合の話です。
管理組合との関係では、共有者の管理費等の債務を、性質上分けられない不可分債務として整理します。民法430条は、数人の債務者がいる不可分債務について、連帯債務の規定を当てはめると定めています。連帯債務では、436条のとおり、債権者はその債務者の一人に、または同時もしくは順に全員に、全部でも一部でも履行を求められます。したがって、管理組合は、AさんかEさんのどちらか一人に滞納分の全額を請求できる、と考えます。「持分で割った額しか請求できない」というのは、典型的な誤りの選択肢です。
相続:相続分に応じて引き継ぐ
滞納したまま区分所有者のAさんが亡くなり、相続人が妻のE、子のF・Gの3人だとします。民法899条は、各共同相続人は相続分に応じて被相続人の権利義務を承継すると定めています。相続分は妻が2分の1、子が残りを等分して4分の1ずつです。滞納が12万円なら、Eに6万円、FとGに3万円ずつを請求できる計算になります(金額は説明用の架空の例です)。
相続人全員が相続を放棄したときは、放棄した人は初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法939条)。相続人のあることが明らかでないときは、利害関係人である管理組合が、家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を請求できます(民法952条1項)。
破産と行方不明:手続の使い分け
破産した場合は、裁判所の破産手続開始の決定が境目です。
| 時期 | 扱い |
|---|---|
| 開始決定より前に生じた滞納 | 破産債権になる。破産法100条1項により、破産手続によらなければ行使できない |
| 開始決定より後の管理費 | 区分所有者である限り、本人が払う義務を負う |
破産しただけでは、管理費の支払義務はなくなりません。区分所有者であり続ける限り、開始決定後の管理費は発生し続けます。
行方不明の場合は、訴えを起こしても訴状を届けられません。そこで公示送達を使います。民事訴訟法110条1項1号は、当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合に、裁判所書記官が申立てにより公示送達をすることができると定めています。行方不明でも、訴えをあきらめる必要はありません。
遅延損害金と弁済の充当
滞納には遅延損害金が付きます。標準管理規約60条2項は、規約に年利を定めたうえで、遅延損害金のほか、違約金としての弁護士費用や督促・徴収の費用を加算して請求できると定めています。同条関係のコメントでは、利率を利息制限法などより高く設定することも考えられるとされています。
規約に定めがなくても、金銭債務の不履行には法定利率による損害賠償を請求できます(民法419条1項)。債権者は損害の証明をする必要もありません(同条2項)。法定利率は年3パーセントから始まり、3年を1期として見直されます(民法404条)。
一部だけ入金があったときの充当にも順序があります。
- 払う側と受け取る側で順序を合意していれば、その順序で充てる(民法490条)。標準管理規約60条5項では、理事会が決議した順序で充てる形になっています
- 合意がなければ、払う人が払うときに指定できる(民法488条1項)
- 払う人が指定しなければ、受け取る側が指定できる。ただし払う人が直ちに異議を述べれば効かない(同条2項)
試験での問われ方と覚え方
出題では、「だれに」「どれだけ」請求できるかが、肢の言い回しを変えて問われます。次の順に確認すると整理しやすくなります。
- 債務者は区分所有者か。住人や賃借人ではないか
- 区分所有権が移っていないか。移っていれば特定承継人にも請求でき、元の所有者への請求も残る
- 共有なら全額、相続なら相続分に応じた額か
- 破産なら、手続開始の前の債権か後の債権か
条文の番号と文言をセットで覚えると、「知らなかったから免責」のような言い換えの誤りに気づきやすくなります。
授業・講座への導線
管理業務主任者講座では、滞納管理費を「だれに請求するか」という授業で、この記事の場面を一つずつ扱います。講座ページから授業の内容を確認できます。試験の全体像は管理業務主任者試験とは?で、決議の要件は区分所有法と標準管理規約の決議要件を1枚の表でで整理しています。
まとめ
- 管理費等の債務者は区分所有者。賃借人が払う約束をしていても変わらない
- 売買・競売で区分所有権を取得した特定承継人にも、元の区分所有者にも請求できる(区分所有法8条)。知らなかったかどうかは問われない
- 共有者は一人に全額、相続人は相続分に応じて、破産は開始決定の前後で分ける
- 行方不明なら公示送達、遅延損害金は規約の定めがなくても法定利率で請求できる

