「共通鍵暗号と公開鍵暗号は、何がどう違うの?」「暗号化に使う鍵はどちらのものだったか、いつも迷う」。情報セキュリティマネジメント試験の勉強で、多くの人が一度はつまずくところです。
この記事では、2つの方式の違いを「鍵の使い方」「速さ」「鍵の数」「鍵の渡し方」の4つの観点で比較表にまとめます。あわせて、2つを組み合わせたハイブリッド暗号と、暗号の安全性を保つしくみであるCRYPTREC(クリプトレック)暗号リストも扱います。
結論:同じ鍵を使うか、対の鍵を使うか
2つの方式を分けるのは、鍵の使い方です。
- 共通鍵暗号:暗号化と復号で同じ鍵を使う。送る人と受け取る人が、同じ1本の鍵を持つ
- 公開鍵暗号:対になった2本の鍵を使う。1本は誰に見せてもよい「公開鍵」、もう1本は本人だけが持つ「秘密鍵」。公開鍵で暗号化したものは、対の秘密鍵でしか復号できない
公開鍵暗号では「暗号化は受け取る人の公開鍵、復号は受け取る人の秘密鍵」。どちらも受け取る人の鍵です。送る人の鍵ではありません。
なお、暗号化の前の読める状態の情報を「平文」、暗号化したものを「暗号文」と呼びます。暗号文から平文に戻す作業が「復号」です。
比較表:5つの観点で整理する
| 観点 | 共通鍵暗号 | 公開鍵暗号 |
|---|---|---|
| 鍵の使い方 | 暗号化と復号で同じ鍵 | 公開鍵で暗号化し、秘密鍵で復号 |
| 処理の速さ | 速い(大量のデータ向き) | 共通鍵暗号より遅い |
| 鍵の配送 | 盗まれない方法で渡す工夫が必要 | 公開鍵はそのまま公開してよい |
| n人が互いにやり取りするときの鍵の数 | n(n−1)/2 本 | 2n 本 |
| 代表的な方式 | AES、Camellia | RSA、楕円曲線暗号(ECDH・ECDSAなど) |
代表的な方式の名前は、後半で触れるCRYPTREC暗号リストにも載っています。AESは共通鍵暗号、RSAとECDH・ECDSAは公開鍵暗号に分類されています(2026年10月13日確認)。
共通鍵暗号:速いが「鍵をどう渡すか」が課題
共通鍵暗号は、AさんとBさんが同じ鍵を持っていることが出発点です。Aさんがその鍵で暗号化し、Bさんが同じ鍵で復号します。処理が速いので、大きなファイルや大量の通信を暗号化するのに向いています。
弱点は鍵配送問題です。BさんがAさんと同じ鍵を持っていなければ、そもそも復号できません。ところが、暗号文を送る同じ経路で鍵も送ってしまうと、途中で鍵を盗まれたとたんに暗号文がすべて読まれてしまいます。鍵は、暗号文とは別の安全な方法で渡す必要があります。
もう一つの弱点が鍵の数です。共通鍵暗号では、やり取りする相手ごとに別の鍵が必要です。たとえば10人が全員とやり取りするなら、次のように増えていきます。
| 人数 | 共通鍵暗号の鍵の数 | 公開鍵暗号の鍵の数 |
|---|---|---|
| 5人 | 10本 | 10本 |
| 10人 | 45本 | 20本 |
| 100人 | 4,950本 | 200本 |
共通鍵暗号は n×(n−1)÷2 本なので、人数が増えると急に管理が大変になります。一方、公開鍵暗号は1人が公開鍵と秘密鍵の2本を持てばよいので、2×n 本です。5人のときは同じ10本ですが、人数が多いほど差が開きます。
公開鍵暗号:鍵を隠さずに渡せる
公開鍵暗号は、鍵配送問題を解決するために使われます。流れは次のとおりです。
- Bさんは、公開鍵と秘密鍵のペアを作る
- Bさんは、公開鍵を相手に渡す(盗み見られても問題ない)。秘密鍵は自分だけで持ち続ける
- Aさんは、Bさんの公開鍵で平文を暗号化して送る
- Bさんは、自分の秘密鍵で復号する
公開鍵が第三者の手に渡っても、復号できるのは秘密鍵を持つBさんだけです。だから、鍵を秘密のまま届ける必要がありません。
ただし、公開鍵暗号は共通鍵暗号より処理が遅いという弱点があります。そのため、大きなファイルをそのまま公開鍵暗号で暗号化することは、あまり行われません。
よくある間違いは「送る人が自分の公開鍵で暗号化する」「公開鍵で復号する」です。これでは受け取る人が中身を取り出せません。「誰が読むのか」を考えて、その人の鍵を選びます。
ハイブリッド暗号:両方のよいところを組み合わせる
共通鍵暗号は「速いが鍵を渡しにくい」、公開鍵暗号は「鍵を渡しやすいが遅い」。この2つの弱点を補い合うのがハイブリッド暗号です。手順は4つです。
- 送る人が、その場かぎりの共通鍵を1本作る
- 本文を、その共通鍵で暗号化する(大量のデータでも速い)
- 使った共通鍵そのものを、受け取る人の公開鍵で暗号化して、本文の暗号文といっしょに送る
- 受け取る人は、自分の秘密鍵で共通鍵を取り出し、その共通鍵で本文を復号する
本文には速い共通鍵暗号を使い、共通鍵を渡す部分にだけ公開鍵暗号を使う、という分担です。
暗号は永遠には安全でない:危殆化とCRYPTREC暗号リスト
暗号の安全性は、時間がたつと変わります。コンピュータの性能向上や新しい解読方法の発見によって、安全性が下がっていくことを危殆化(きたいか)といいます。
日本では、CRYPTRECという仕組みが暗号の安全性を評価・監視しています。CRYPTRECは、電子政府推奨暗号の安全性を評価・監視し、暗号技術の適切な実装法・運用法を調べる、デジタル庁・総務省・経済産業省・NICT・IPAなどが関わるプロジェクトです。その成果がCRYPTREC暗号リストで、3つの区分があります(2026年10月13日確認)。
| 区分 | 位置づけ |
|---|---|
| 電子政府推奨暗号リスト | 安全性と実装性能が確認され、市場での利用実績が十分か今後の普及が見込まれるとして、利用を推奨するもの |
| 推奨候補暗号リスト | 安全性と実装性能が確認され、今後、電子政府推奨暗号リストに載る可能性のあるもの |
| 運用監視暗号リスト | 実際に解読されるリスクが高まるなどして推奨すべき状態ではなくなったが、互換性維持のために継続利用を認めるもの。互換性維持以外の目的での利用は推奨しない |
現行のリストでは、電子政府推奨暗号リストの共通鍵暗号にAESとCamellia、公開鍵暗号にRSA-OAEP(守秘)、DH・ECDH(鍵共有)などが載っています。運用監視暗号リストには、SHA-1や3-key Triple DESなどがあります。リストは更新されるため、最新の内容はCRYPTRECの公式サイトで確認してください。
また、リストに載っていても、鍵の長さが基準を満たしていなければ推奨される使い方にはなりません。CRYPTRECは、アルゴリズムと鍵長を選ぶための「暗号強度要件に関する設定基準」も公表しています。
試験での問われ方と覚え方
IPAの情報セキュリティマネジメント試験の出題内容には、科目Aの「情報セキュリティ全般」の項目として「暗号」が挙げられています(2026年10月13日確認)。
当サイトで集計した過去問400問(平成28年春〜令和元年秋の公開問題)では、暗号方式の基礎に分類した論点は14.0問で、1回(50問)あたりでは約1.8問でした。毎回1〜2問出る計算です。出題の傾向は、次のような知識を確かめる形が中心です。
- 公開鍵暗号で暗号化するとき、どの鍵を使うか
- 暗号化と復号で同じ鍵を使う方式はどちらか
- ハイブリッド暗号の特徴
- 暗号の危殆化とその備え
覚え方は次の3つです。
- 同じ鍵なら共通鍵、対の鍵なら公開鍵
- 「暗号化は相手の公開鍵、復号は自分の秘密鍵」(メールを送る場面を思い浮かべる)
- 共通鍵は速い・鍵の配送が課題/公開鍵は遅い・鍵の配送は楽
関連する用語として、機密性・完全性・可用性との関係は機密性・完全性・可用性の違いの記事で整理しています。暗号は、このうち「機密性」を守るための代表的な手段です。出題される分野の全体像は科目Aでよく出る分野ランキングも参考にしてください。
講座でどう学べるか
情報セキュリティマネジメント講座では、暗号方式の基礎を、平文・暗号化・復号の関係から、共通鍵暗号、公開鍵暗号、ハイブリッド暗号、危殆化、ストレージ暗号化の順に学べる構成にしています。AI講師のトーレスに「この場合はどの鍵を使うの?」と質問しながら進められます。
まとめ
- 共通鍵暗号は、暗号化と復号で同じ鍵を使う。速いが、鍵の安全な受け渡しと鍵の数の管理が課題
- 公開鍵暗号は、受け取る人の公開鍵で暗号化し、その人の秘密鍵で復号する。鍵を隠して渡す必要がないが、処理は遅い
- n人が互いにやり取りするとき、鍵の数は共通鍵暗号でn(n−1)/2本、公開鍵暗号で2n本
- 実際には、本文は共通鍵で、共通鍵の受け渡しは公開鍵で行うハイブリッド暗号が使われる
- 暗号は危殆化する。CRYPTREC暗号リストなど公的な情報で、いま推奨されている暗号を確認する
この記事の内容は、2026年10月13日時点でCRYPTRECの公開資料を確認したものです。最新のリストは、必ずCRYPTRECの公式サイトでご確認ください。

